経済史

日本における1920年の戦後恐慌と大正期の経済動向

第一次世界大戦後の大戦景気と大正バブルの反動として1920年に発生した日本の戦後恐慌。その背景、株価暴落、銀行の取り付け騒ぎ、そして財閥の台頭について詳しく解説します。

📌 主なポイント

  • 戦後恐慌は、戦争終結後の好景気の反動として発生する不況であり、日本では1920年3月に始まったものが特に知られている。
  • 1919年後半には大正バブルと呼ばれる投機ブームが発生し、株式や商品価格が高騰したものの、1920年3月の株価大暴落を契機に崩壊した。
  • 恐慌により全国で169行にのぼる銀行が取り付け騒ぎなどの影響で休業・倒産に追い込まれた。
  • 三井、三菱、住友、安田などの主要財閥は手堅い経営と豊富な資金力で地位を高め、独占資本の強大化が進んだ。

戦後恐慌(せんごきょうこう)とは、戦争終結後に生じる景気の急激な落ち込み、すなわち反動恐慌を指す経済現象である。歴史上、いくつかの事例が確認されるが、日本では一般的に第一次世界大戦後の1920年(大正9年)3月に発生した深刻な経済不況を指すことが多い。

大戦景気から大正バブルへの展開

1918年11月のドイツ敗北による第一次世界大戦の終結時、大戦景気は一時的な沈静化を迎えた。しかし、ヨーロッパの復興遅延の予想や、アメリカ合衆国の好景気継続への期待、さらに中華民国への輸出好調を背景として、日本経済は再び熱狂を取り戻した。

1919年後半には輸出が再び増加し、金融市場は戦中を上回る活況を呈した。これが「大正バブル」と呼ばれるブームである。繊維業や電力業がその担い手となり、綿糸、綿布、生糸、米などの商品をはじめ、土地や株式への投機が活発化して激しいインフレーションが発生した。

1920年の恐慌発生と市場の混乱

1920年3月、過剰生産とヨーロッパ列強の生産市場への完全復帰を主因として戦後恐慌が勃発した。日本の輸出は不振に陥り、余剰生産物が市場に溢れた結果、株価は最高値から半分から3分の1の水準へと大暴落した。

株価の暴落は金融不安を呼び起こし、同年4月から7月にかけて銀行の取り付け騒ぎが続発した。休業や倒産に追い込まれた銀行は全国で169行に及び、地方の小銀行を中心に多大な打撃を受けた。また、横浜の生糸商である茂木商店の倒産に伴い、取引のあった第七十四銀行も連鎖倒産するなど、実体経済と金融システム全体が深刻な混乱に見舞われた。

主要企業の打撃と財閥の台頭

大戦景気を通じて債務国から債権国へと転じていた日本であったが、1919年以降は輸入超過に転じ、主力だった綿糸や生糸の相場も大暴落した。これにより、多くの新興事業者が苦境に立たされた。船成金として知られた山本唯三郎、三井物産を凌ぐ取引高を誇った神戸の貿易商・鈴木商店、久原房之助が率いた日立鉱山、高田商会、吉河商事などが大打撃を受け、多くの事業者が事業縮小や破綻を余儀なくされた。

混乱の中、企業や銀行の間では決算の粉飾や不良債権の隠匿が横行し、事態をさらに長期化させた。一方で、三井財閥、三菱財閥、住友財閥、安田財閥といった大手財閥や有力紡績会社は、手堅い経営によって安定した収益を維持した。財閥系企業は豊富な資金力を背景に、不況にあえぐ他の業種や企業を支配下に組み入れ、結果として独占資本のさらなる強大化をもたらした。

1920年代の慢性不況

1920年の恐慌後、1920年代の日本経済は「慢性不況」と称される長期的な停滞期に突入した。大戦期に花形産業であった鉱山、造船、商事の各分野はいずれも低迷し、重化学工業も欧州製品の再流入によって苦境に立った。この長期不況は、大戦期の輸出主導型景気と戦後のバブル経済に対する不可避の反動であったと位置づけられている。

よくある質問

戦後恐慌とはどのような現象ですか?
戦争終結にともなって特需による好景気が終了し、それに留まらず深刻な不景気に陥る経済現象のことです。
日本の戦後恐慌はいつ発生しましたか?
日本では第一次世界大戦後の1920年(大正9年)3月に発生した不況を指して「戦後恐慌」と呼ぶことが一般的です。
1920年の戦後恐慌の主な原因は何ですか?
第一次世界大戦からの過剰生産に加え、ヨーロッパ列強が生産市場へ完全に復帰したことで日本の輸出が不振となり、余剰生産物の発生や株価の暴落を招いたことが原因です。
恐慌発生後の経済にどのような影響がありましたか?
多くの銀行が取り付け騒ぎで破綻し、鈴木商店などの有力事業者や中小企業が打撃を受けた一方、三大財閥などは手堅い経営で影響力を強めました。

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参考文献

  • 中村隆英著「第一次世界大戦下の日本経済-もう一つの高度成長」、野上毅編『朝日百科日本の歴史11 近代II』朝日新聞社、1989年4月。
  • 春日豊著「財閥の確立と展開」、野上毅編『朝日百科日本の歴史11 近代II』朝日新聞社、1989年4月。