行政学
公用文における難解な表現と行政用語の課題
日本の行政機関で用いられる公文書特有の難解な表現「お役所言葉」の背景、特徴、および近年進められている改善の取り組みについて解説します。
📌 主なポイント
- ✓「お役所言葉」は、行政文書特有の難解で抽象的な表現に対する批判的な呼称である。
- ✓難解な表現が用いられる背景には、権威の維持や、批判を避けるための自衛本能が指摘されている。
- ✓近年、多くの自治体で市民の理解を促すため「やさしい日本語」を用いた公文書作成の取り組みが進んでいる。
「お役所言葉」とは、日本の行政機関が作成する公文書や法律、条例などで用いられる、独特で難解な表現スタイルを指す批判的な呼称です。抽象的でまわりくどい言い回しや、専門用語の多用により、一般市民にとって内容が理解しにくいという点がしばしば指摘されています。
歴史的背景と批判
行政文書の難解さに対する指摘は古くから存在します。夢野久作は、勝海舟の言葉を引用し、明治政府以降の公文書が漢語を多用するようになった背景には、人民に政治を理解させず、権威を保とうとする意図があったのではないかという皮肉を記しています。また、1983年には朝日新聞社の『'80年代世相語ガイド』において、「見直し」「検討」「抑制」といった言葉が「お役所不明確用語」として取り上げられました。
1990年代以降も、行政文書の硬直性は批判の対象となってきました。著作家のイアン・アーシーは、公文書が堅苦しく抽象的な表現を用いる理由として、自治体職員が市民からの批判を避けるための自衛本能や、公文書は格式高くあるべきだという組織内の意識が働いていると指摘しています。
主な特徴
お役所言葉には、以下のような特徴的な表現や傾向が見られると指摘されています。
- 抽象的な動詞の多用:具体的な行為を「整備」や「検討」といった言葉で一括りにする傾向があります。特に「検討する」という表現は、必ずしも実行を伴わず、先送りの意図を含んで用いられる場合があるとの批判があります。
- 抽象性を高める接尾語:「活性化」「充実化」「低廉性」など、名詞に特定の接尾語を付与して抽象度を高める手法が多用されます。
- 冗長な接続詞や助詞:条文において「又は」「及び」「並びに」といった語を多用し、音節を増やすことで厳密さを期そうとする傾向があります。
- カタカナ語の多用:「ノーマライゼーション」や「アカウンタビリティ」など、専門的で多音節な外来語が頻繁に使用されます。
- 網羅的な表現:列挙の際に「等」を多用することで、対象範囲を曖昧かつ広範に保とうとする配慮が見られます。
改善への取り組み
近年では、市民への情報公開と理解促進を目的として、多くの自治体で公文書の改善が進められています。中津川市や銚子市、東京都港区などの自治体では、職員向けに「お役所言葉改善の手引き」を作成し、より平易で分かりやすい「やさしい日本語」への書き換えを推奨しています。また、神戸市役所のように、職員の意識改革の一環として、専門用語を避けた市民目線の文章作成を推進する動きも広がっています。
よくある質問
なぜ行政文書は難解だと言われるのですか?
専門用語や抽象的な漢語、冗長な表現が多用されるため、一般市民にとって内容を直感的に理解しにくいためです。
「検討する」という言葉にはどのような批判がありますか?
具体的な実行を伴わず、単なる先送りや、要望を断る際のワンクッションとして用いられることが多いという批判があります。
行政文書を改善する動きはありますか?
はい。中津川市や港区など、多くの自治体が「やさしい日本語」を用いた公文書作成の手引きを作成し、分かりやすい行政サービスを目指しています。
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公用文作成の要領霞が関文学やさしい日本語行政改革
参考文献
- 夢野久作『街頭から見た新東京の裏面』
- 榊原昭二『'80年代世相語ガイド 上』朝日新聞社、1983年
- 中津川市総務部行政管理課『「お役所言葉」改善の手引き』
- 神戸市役所やさ日推進チーム「『アンスコ』無意識に使っていた『役所言葉』職員の意識改革に『やさしい日本語』が示した威力」Withnews、2021年
- 銚子市『お役所言葉改善みちしるべ』2018年
- 東京都港区『実践! やさしい日本語による公文書』2017年