航空工学・流体力学
航空力学および流体機械における失速(ストール)のメカニズム

航空機の翼やターボ機械における失速(ストール)の物理的メカニズム、発生過程、ディープストールや旋回失速などの分類について解説する百科事典記事。
📌 主なポイント
- ✓失速(ストール)は、翼の迎角を大きくし過ぎた際に気流が剥離し、揚力が大幅に低下する現象である。
- ✓ディープストールはT字尾翼機などで発生しやすく、昇降舵が効かなくなることで回復が極めて困難になる危険な状態である。
- ✓ターボ機械の低流量域で発生する旋回失速は、激しい圧力脈動を引き起こし、翼の疲労破壊を招くことがある。
失速(しっそく、英語: Stall)とは、航空機の翼などの迎角を過度に大きくした際に、翼の表面を流れていた気流が剥離し、揚力が急激に失われる現象である。英語ではストールとも呼ばれる。

発生のメカニズム
一般的な翼は、迎角が小さい範囲では上面の気流がコアンダ効果によって表面に沿って流れ、圧力差によって揚力を生み出す。しかし迎角を大きくしていくと、境界層剥離と呼ばれる現象が発生し、気流が翼の上面に沿って流れなくなる。この状態が失速であり、そのときの迎角を失速迎角と呼ぶ。
揚力係数は失速迎角付近でピークを迎えた後に急減し、同時に抗力係数が急増するため、揚抗比が著しく低下する。

失速の過程
翼の特性やレイノルズ数により異なるが、一般的な失速への移行過程は以下の通りである。
- 迎角の増加に伴い、流速や迎角が大きい一部の領域で小規模な境界層剥離が発生する。
- 剥離と再付着が交互に起こるバフェットと呼ばれる現象が生じ、翼が振動してパイロットに警告を与える。
- 迎角がさらに大きくなると剥離領域が拡大し、完全に失速状態に至る。
特殊な失速形態
ディープストール
特に垂直尾翼の先端付近に水平尾翼が配置された「T字尾翼機」などで発生しやすい危険な失速現象である。主翼の失速によって生じた乱流が水平尾翼を包み込み、昇降舵の効きを失わせるため、通常の機首下げモーメントによる回復が極めて困難になる。1963年のBAC 1-11のプロトタイプ墜落事故をはじめとして、いくつかの航空機事故の要因として知られている。

旋回失速
ターボ機械を低流量域で運転した際に、翼の失速領域が動翼よりも遅い速度で回転方向に伝播する不安定現象である。ジェットエンジンの圧縮機で発生する場合にはサージングとも呼ばれ、激しい圧力脈動や疲労破壊を引き起こす原因となる。
よくある質問
失速(ストール)とはどのような現象ですか?
翼の迎え角を大きくし過ぎたことで、表面の気流が剥離し、揚力をほとんど生み出せなくなる現象を指します。
ディープストールとは何ですか?
T字尾翼機などで発生しやすい特殊な失速であり、主翼からの乱流が水平尾翼を包むことで昇降舵が機能しなくなり、通常の操作で回復しにくくなる現象です。
旋回失速はどこで発生しますか?
ターボ機械を低流量域で運転した際、軸流式機械の羽根車や遠心式機械の案内羽根などで発生します。
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参考文献
- 日本航空 『航空実用辞典』
- ターボ機械協会 編 『ターボ機械 入門編』 日本工業出版、2005年。
- ターボ機械協会 編 『ターボポンプ』 日本工業出版、2007年。