調理科学

食品における「アク」の性質と調理上の処理

食品における「アク」の性質と調理上の処理
調理における「アク」の定義、植物性・動物性食品それぞれの成分と役割、およびアク抜き・アク取りの科学的な手法について解説します。

📌 主なポイント

  • 「アク」には、草木灰の上澄み液である「灰汁」と、食品の不快成分である「アク」の二つの意味がある。
  • 植物性食品のアクは主に防御物質(シュウ酸、ポリフェノール等)であり、動物性食品のアクは主に熱変性したタンパク質である。
  • アク抜きには、水晒し、茹でこぼし、アルカリ性溶液(重曹等)の使用など、食材に応じた化学的・物理的手法が用いられる。

調理の現場で用いられる「アク」という言葉は、大きく分けて二つの意味を持ちます。一つは、草木灰を水に浸して得られるアルカリ性の液体(灰汁)であり、もう一つは、食品に含まれるえぐ味、渋味、苦味などの不快な成分の総称です。本項では、主に後者の食品におけるアクの性質と、その処理方法について解説します。

食品のアクの正体

食品におけるアクは、食材の種類によってその成分や性質が大きく異なります。一般的に、植物性食品と動物性食品ではアクの正体が全く別物です。

植物性食品のアク

植物性食品に含まれるアクは、主に植物が外敵から身を守るための防御物質や、生理活性物質です。これにはシュウ酸、ポリフェノール(タンニンなど)、アルカロイド、サポニンなどが含まれます。例えば、ホウレンソウに含まれるシュウ酸は、えぐ味の原因となるだけでなく、カルシウムの吸収を阻害する性質があります。これらは適度な量であれば食材の個性となりますが、健康への影響や味覚の観点から、調理過程で除去されることが一般的です。

動物性食品のアク

肉や魚介類を加熱した際に煮汁の表面に浮かぶ茶色や灰色の泡は、主に水溶性のタンパク質が熱変性によって凝固したものです。この泡には、旨味成分とともに臭みや雑味が含まれています。料理の仕上がりを澄んだものにするためには取り除くのが一般的ですが、料理の種類や好みによっては、コクを出すためにあえて残す場合もあります。

アクの処理方法

アクの処理には、食材の特性に応じた「アク抜き」と「アク取り」の二つの手法があります。

アク抜き(植物性食品)

植物性食品のアクを抜く手法は、成分の性質を利用して行われます。

  • 水にさらす:ゴボウやナスなど、水溶性成分を流出させる場合に用います。
  • 茹でる・熱湯に漬ける:ホウレンソウやフキなど、熱によって成分を溶出させます。
  • 灰汁(アルカリ性溶液)の使用:ワラビやゼンマイなどの山菜に用いられます。アルカリ性が繊維を軟化させ、アクの溶出を促進します。現代では重曹(炭酸水素ナトリウム)で代用されることが一般的です。
  • 米のとぎ汁・米糠:タケノコやダイコンのアク抜きに用いられ、吸着性を利用して不快成分を取り除きます。
ワラビのアク抜き
ワラビのアク抜き(湯を注ぎ一昼夜置く工程)

アク取り(動物性食品)

煮込み料理などで発生する動物性タンパク質の凝固物は、網杓子や玉杓子を用いて物理的に除去します。また、スープを透明に仕上げるために、泡立てた卵白を加えてアクを吸着させ、濾し取る「アク引き」という手法も存在します。

よくある質問

なぜホウレンソウのアク抜きが必要なのですか?
ホウレンソウに含まれるシュウ酸が、えぐ味の原因となるだけでなく、カルシウムの吸収を阻害したり、体内で結石の原因となる可能性があるためです。
動物性食品のアクはすべて取り除くべきですか?
必ずしもそうではありません。雑味や濁りを嫌う料理では取り除きますが、コクや複雑な味わいを重視する料理ではあえて残すこともあります。
「灰汁」と「重曹」は同じ役割ですか?
どちらもアルカリ性を示すため、植物の繊維を軟化させ、アクの溶出を助けるという点で共通の役割を果たします。

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参考文献

河野友美『新食品事典13』真珠出版, 1994年; 『食料の百科事典』丸善, 2001年; 杉田浩一編『日本食品大事典』医歯薬出版, 2008年; 『健康・栄養学用語辞典』中央法規出版, 2012年