言語学

アングリッシュ:外来語を排除した英語の言語純化運動

アングリッシュ(Anglish)の歴史、背景、言語純化運動としての特徴について、ポール・ジェニングズやポール・アンダースンらの試みを交えて詳しく解説します。

📌 主なポイント

  • アングリッシュは、フランス語やラテン語などの借用語を排除し、ゲルマン語系の単語に置き換える英語の言語純化運動である。
  • 1966年にポール・ジェニングズが雑誌「パンチ」で外来語を用いない文章を発表したことで知られる。
  • SF作家のポール・アンダースンは1989年に発表した科学解説記事「Uncleftish Beholding」で、元素や原子などの科学用語をゲルマン系の語で表現した。

アングリッシュ(Anglish)とは、フランス語、ラテン語、ギリシア語といった歴史的な借用語を排除し、ゲルマン語派に由来する単語のみで構成しようとする、英語の一種および言語純化運動の試みである。

概要と歴史的背景

英語は歴史的経緯から、ノルマン・コンクェストをはじめとする様々な言語との接触を経て、多くの外来語を取り入れてきた。アングリッシュは、こうしたラテン系やロマンス諸語由来の語彙を避け、古英語をはじめとするゲルマン系の語源を持つ表現に置き換えることで、本来的な英語の姿を再構築しようとする実験的・創作的な試みである。言語純化運動の一環として、主に文学的な遊びや言語学的な思考実験として散발的に行われてきた。

主な実践例と作家たち

近代以降、いくつかの著名な作家や知識人がアングリッシュを用いた文章を発表している。

  • ポール・ジェニングズ:1966年に雑誌「パンチ」誌上で、ノルマン・コンクェスト900周年を記念し、外来語を一切用いない文章を発表した。
  • パーシー・グレインジャー:オーストラリアの作曲家であり、独自の私的な文章においてゲルマン語系の単語に置き換えた「青い目の英語(blue-eyed English)」と称するスタイルを用いた。
  • ポール・アンダースンとダグラス・ホフスタッター1989年にSF作家のポール・アンダースンが発表した「Uncleftish Beholding」では、原子論などの科学的概念を外来語なしの英語で記述した。その後、1992年にダグラス・ホフスタッターがアンダースンの名前をもじって「アンダー・サクソン」と称し、この傾向の研究や紹介を行った。

科学用語の置き換え例

ポール・アンダースンの作品中では、近代科学の専門用語がゲルマン系の語彙を用いて以下のように表現されている。

  • 元素:firststuff
  • 粒子:mote
  • 原子:uncleft
  • グラム:seedweight
  • 水素:waterstuff
  • 分子:bulkbit
  • ヘリウム:sunstuff
  • 酸素:sourstuff
  • 結晶:chill
  • 固い:fast
  • 状態:standing
  • 結合:yokeway
  • 蛋白質:forestuff
  • 炭素:coalstuff
  • 窒素:chokestuff

よくある質問

アングリッシュとは何ですか?
フランス語やラテン語などの外来語を排除し、ゲルマン語派に由来する単語だけで英語を構成しようとする言語純化運動、およびその試みのことです。
アングリッシュの主な実践例にはどのようなものがありますか?
1966年のポール・ジェニングズによるパンチ誌での試みや、1989年のポール・アンダースンによる科学記事「Uncleftish Beholding」などが挙げられます。
アングリッシュで「原子」や「水素」はどのように表現されますか?
ポール・アンダースンの作品では、原子は「uncleft」、水素は「waterstuff」などのゲルマン系由来の造語や表現に置き換えられています。

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参考文献

Paul Jennings, "I Was Joking Of Course", London, Max Reinhardt Ltd, 1968.
Paul Anderson, "Uncleftish Beholding", Analog Science Fact / Science Fiction Magazine, mid-December 1989.
Douglas Hofstadter, "Speechstuff and Thoughtstuff", in Sture Allén (ed.), Of Thoughts and Words: Proceedings of Nobel Symposium 92, London: Imperial College Press.
Douglas Hofstadter, Le Ton beau de Marot: In Praise of the Music of Language, Basic Books, 1997.