亜ヒ酸の化学的性質と毒性に関する総合解説

📌 主なポイント
- ✓亜ヒ酸の化学式は As(OH)3 であり、水溶液中で生成するが純物質としては単離できない。
- ✓ヒ素原子に3個のヒドロキシ基が結合した三角錐形の分子構造を持つ。
- ✓最初のpKaは9.2であり、塩基の添加によって段階的に異なる陰イオンへ変化する。
亜ヒ酸(あヒさん、arsenous acid)は、化学式が As(OH)3 で表される無機化合物である。水溶液中において生成することが知られているが、純物質としての単離はできない。しかしながら、化学的および環境科学的文脈における As(OH)3 の重要性は失われるものではない。
一般の文脈や実務においては、その無水物に該当する三酸化二ヒ素を指して亜ヒ酸と呼ぶことも多い。


化学的性質と構造
As(OH)3 は、ヒ素原子に3個のヒドロキシ基が結合した三角錐形の分子構造を有している。

類似するリンの化学種である亜リン酸(H3PO3)は、ホスホン酸(HPO(OH)2)側に平衡が偏る性質を持つ。このようなヒ素(As)とリン(P)の間における異なる挙動は、主族元素において軽い元素ほど高い酸化状態の方が安定であるという一般的な化学的傾向を反映したものである。
化学反応
亜ヒ酸は、水中での三酸化二ヒ素の穏やかな水和反応により生成する。

水溶液中に塩基を添加していくことにより、段階的に陰イオン種へと変化する。具体的には、[AsO(OH)2]^-、[AsO2(OH)]^2-、および [AsO3]^3- の各陰イオンが形成される。




最初の酸解離定数に由来するpKaは9.2である。三酸化ヒ素の水溶液中における化学的挙動は、生成する亜ヒ酸とその共役塩基の状態に深く依存している。
毒性と歴史的事例
ヒ素を含む化合物は総じて毒性が大きく、発癌性を有することが知られている。無水物である三酸化二ヒ素は、かつてまたは現在においても除草剤、殺虫剤、殺鼠剤などの用途で用いられてきた。また、亜ヒ酸自体は無味無臭に近い性質を持つことから、歴史的に中毒事件や毒殺に利用された事例が存在する。
日本国内においても、過去に重大な中毒・殺害事件が発生している。1938年には福岡県の春日原競馬場において、誤って亜ヒ酸が混入された焼餅が販売され、多数の死傷者が出る集団食中毒事件が発生した。また、1998年には和歌山県においてカレーに亜ヒ酸が混入され、複数の死者を出した和歌山毒物カレー事件が起きたことでも知られている。
よくある質問
亜ヒ酸は単体として取り出すことができますか?
亜ヒ酸と三酸化二ヒ素の関係は何ですか?
亜ヒ酸の分子構造はどのような形をしていますか?
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参考文献
King, R. Bruce (ed.) (1994). Encyclopedia of Inorganic Chemistry. Chichester: John Wiley & Sons
Greenwood, N.N.; A. Earnshaw (1997). Chemistry of the Elements. Oxford: Butterworth-Heinemann
『昭和ニュース事典第7巻 昭和14年-昭和16年』本編p634 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年