言語学者

ブラジ・カチュル:言語学者と「世界英語」の提唱者

「世界英語(World Englishes)」の概念を提唱したインド出身の言語学者、ブラジ・カチュルの生涯と業績を解説。英語の三同心円モデルやカシミール語研究について紹介します。

📌 主なポイント

  • 1932年、インドのシュリーナガルで出生。
  • 「世界英語(World Englishes)」の概念を提唱し、言語学の新たな分野を確立した。
  • 英語の使用状況を説明する「三同心円モデル」を考案した。
  • 2016年7月29日、アメリカ合衆国イリノイ州アーバナにて逝去。

ブラジ・ビハリ・カチュル(Braj Bihari Kachru、1932年5月15日 - 2016年7月29日)は、インド出身の著名な言語学者であり、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の言語学ジュビリー教授を務めました。彼は「世界英語(World Englishes)」という学問分野を確立し、英語が世界中でどのように使用され、変容しているかを体系的に分析したことで知られています。

生涯

1932年、当時イギリス領インド帝国のジャンムー・カシュミール藩王国シュリーナガルにて、カシミール・パンディットの家庭に生まれました。父のパンディット・ダモダール・ダス・カチュルは教育者であり、家庭内では政治、文学、哲学に関する活発な議論が行われる環境で育ちました。1962年にはエディンバラ大学で言語学の博士号を取得しています。妻は同じく言語学者のヤムナ・カチュル(Yamuna Kachru)であり、息子にはスタンフォード大学の理論物理学者であるシャミット・カチュルがいます。

世界英語と三同心円モデル

カチュルの最も重要な学術的貢献は、「世界英語(World Englishes)」という枠組みの提唱です。彼は、英語が世界各地でどのように機能しているかを理解するために、三同心円モデルを考案しました。

  • 内側の円(Inner Circle):英語を母国語とする伝統的な国々(イギリス、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど)。これらの国々は英語の規範を決定する「規範提供者」とされます。
  • 外側の円(Outer Circle):歴史的背景から英語が公用語や制度の一部として定着している国々(インド、ナイジェリア、フィリピン、ケニアなど)。ここでは英語が「規範開発」の段階にあるとされます。
  • 拡大する円(Expanding Circle):英語が公用語ではないものの、ビジネスや国際交流の共通語として広く使用されている国々(日本、中国、ロシア、ヨーロッパ諸国など)。これらの国々は「規範依存」の段階にあると定義されました。

このモデルは、英語を単一のネイティブスピーカーの言語としてではなく、多様な社会的・文化的文脈に適応する言語として捉える視点を提供しました。

研究と遺産

カチュルは世界英語の研究に加え、カシミール語の言語学的研究でも功績を残しました。彼の著作『The Alchemy of English』は、非ネイティブによる英語の使用と機能、そしてそのモデル化に関する重要な文献として評価されています。2016年7月29日に84歳で死去するまで、言語学の発展に多大な影響を与え続けました。

よくある質問

ブラジ・カチュルが提唱した「三同心円モデル」とは何ですか?
英語の使用状況を「内側の円(母国語圏)」「外側の円(公用語圏)」「拡大する円(外国語圏)」の3つに分類し、それぞれの地域における英語の役割や規範のあり方を説明するモデルです。
ブラジ・カチュルの主な研究分野は何ですか?
主に「世界英語(World Englishes)」の研究と、カシミール語の言語学的研究を専門としていました。

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参考文献

  • Paranjape, M. R. (2016). Soft Power: Indianisation of the English language. DNA India.
  • Braj B Kachru: A Biographical Sketch. World Englishes, 11(2–3), 91–94. (1992).
  • Kachru, B. B. (1962). An analysis of some features of Indian English: a study in linguistic method. University of Edinburgh.
  • Czerniakowski, M. (2016). Obituary: Braj B. Kachru. Linguist List.
  • Bhatt, R. M. (2001). World Englishes. Annual Review of Anthropology, 30(1), 527–550.