化学工業

コールタールの特性と用途

コールタールは石炭の乾留過程で得られる副生成物です。その組成、歴史的背景、医療や工業における利用、および安全性に関する情報を解説します。

📌 主なポイント

  • コールタールは石炭の高温乾留によって生成される副生成物である。
  • IARC(国際がん研究機関)により、発がん性のあるグループ1に分類されている。
  • 1916年、山極勝三郎と市川厚一により、化学物質を用いた世界初の実験発がんが確認された物質である。

コールタール(coal tar)は、石炭を高温で乾留する際に生成される黒色から暗茶色の油状物質です。コークス製造の過程で得られる副生成物であり、複雑な化学組成を持つことが特徴です。

化学的組成

コールタールは主に多環芳香族炭化水素(PAH)を含む芳香族化合物の混合物です。主な成分にはナフタレン、ベンゼン、フェノール、フェナントレン、ベンゾ[a]ピレンなどが含まれます。コールタールを分別蒸留した際の残留分は「コールタールピッチ」と呼ばれ、加熱によって多環芳香族炭化水素が揮発する際に独特の臭気を放ちます。

工業的利用

かつては木材の防腐剤や屋根の塗料として広く利用されていましたが、建材の変化やコンクリートの普及に伴い、その用途は減少しています。現在では、分留によって得られる芳香族化合物やクレオソート油、ピッチなどが、染料やカーボンブラックの原料として利用されています。

安全性と規制

コールタールは、世界保健機関(WHO)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)により、グループ1(発がん性あり)に分類されています。労働安全衛生法においても第2類特定化学物質に指定されており、取り扱いには厳格な管理が求められます。

歴史的には、1916年に山極勝三郎と市川厚一が家ウサギの耳にコールタールを塗布する実験を行い、化学物質による人工的な発がんを確認したことで知られています。これは世界で初めての実験発がんの例とされています。

一方で、医療分野における利用については議論があります。かつて乾癬の治療としてコールタールを用いる「ゲッケルマン療法」が行われていましたが、発がん性の指摘を受けて使用頻度は低下しました。ただし、治療レベルでのリスクについては、追跡調査において一般集団と比較して皮膚がんの発生率に有意な増加は認められなかったとする報告も存在します。

よくある質問

コールタールは現在でも医療に使われていますか?
かつて乾癬の治療として用いられていましたが、発がん性の指摘や代替療法の普及により、現在では使用される機会が大幅に減少しています。
コールタールとアスファルトの違いは何ですか?
コールタールは石炭由来、アスファルトは石油由来の物質であり、化学的な性質や用途が異なるため、用途に応じた使い分けが必要です。

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参考文献

  • 日本産業衛生学会. "コールタール". 2021年6月15日時点のオリジナルよりアーカイブ.
  • 経済産業省. "生産動態統計年報 化学工業統計編".
  • Naldi L, Diphoorn J. "Seborrhoeic dermatitis of the scalp". BMJ Clin Evid. 2015.