民族の概念と定義

📌 主なポイント
- ✓「民族」という用語は、エスニシティやネイションなど複数の概念を包含しており、定義は多義的である。
- ✓日本語の「民族」は明治時代に西洋語の翻訳語として導入され、当初から曖昧なまま定着した。
- ✓「エスニシティ」は1960年代以降に学術用語として普及し、主観的なアイデンティティを重視する概念である。
「民族」という用語は、文脈や学問分野によって多様な意味を包含する概念である。一般的には「エスニシティ(ethnicity)」や「ネイション(nation)」を指す言葉として用いられるが、その定義は極めて多義的であり、学術的にも統一された見解は存在しない。
用語の歴史的変遷
日本語における「民族」という言葉は、明治時代に西洋語の翻訳語として導入された。当初はドイツ語の「Volk」や英語の「nation」の訳語として普及したが、国体論や国家観と結びついて使用されることもあった。そのため、明治期からすでにその語義は曖昧なまま定着したという指摘がある。
ネイションとナショナリズム
英語の「nation」は、ラテン語の「natio(出生)」に由来する。13世紀には共通の祖先や言語を持つ集団を指し、16世紀以降は政治的共同体を意味するようになった。ナショナリズムは、政治的単位とナショナルな単位を一致させようとする運動や思想を指す。アントニー・D・スミスは、ネイションの自治、統一、アイデンティティを確立・維持することを目指すイデオロギー的運動と定義している。
エスニシティとエスニック集団
「ethnicity」はギリシャ語の「ethnos」に由来する。学術用語として「ethnic group」が定着したのは1930年代のアメリカ都市社会学であり、マイノリティ集団を説明する枠組みとして用いられた。1960年代以降、ネイション・ステイトの普遍的価値が疑われる中で「ethnicity」という概念が普及した。エスニシティは主観的なアイデンティティを重視する傾向があり、国家内部における社会分域として捉えられることが多い。
部族(トライブ)との関係
「tribe(部族)」という用語は、かつてアフリカなどの民族集団を指す言葉として用いられてきたが、非西洋的・原始的というイメージを伴うため、現在では「ethnic group」への言い換えが進んでいる。日本においても1980年代以降、「部族」という呼称を避ける傾向が強まっている。
よくある質問
「民族」と「エスニシティ」の違いは何ですか?
なぜ「部族」という言葉は避けられるようになったのですか?
ナショナリズムの定義は何ですか?
関連記事
参考文献
- 塩川伸明『エスニシティとナショナリズム』2008年。
- アントニー・D・スミス『ナショナリズム』2018年。
- 原口武彦「エスニシティ・部族・民族」『人類学の再構築』2002年。