文化的景観の概念と世界遺産における位置づけ

📌 主なポイント
- ✓文化的景観は、人間と自然が相互に作用しあって形成した景観を指す地理学・遺産研究の概念である。
- ✓ユネスコの世界遺産委員会は1992年の作業指針に文化的景観の概念を導入した。
- ✓世界遺産における文化的景観は、「意匠された景観」「有機的に進化する景観」「関連する景観」の三つに分類される。
文化的景観(ぶんかてきけいかん、英語: Cultural landscape)とは、地理学、生態学、遺産研究などの分野において、人間が自然とともに生み出した景観を指す概念である。景観を単なる現存する自然や人工の要素の集合体として捉えるのではなく、自然と人為が相互に作用しあう様子、すなわち文化をも表現するものとして捉える視点であり、歴史的景観と表裏一体をなしている。
その具体的な共存のあり方は多様であり、庭園のように人間が自然の中に人工的な景色を作り出したものや、田園や牧場のように産業活動と深く結びついた景観が含まれる。さらに、自然それ自体にはほとんど手を加えていなくとも、人間がそこに宗教上の聖地としての文化的な意義を付与した山岳なども文化的景観の範疇に含まれる。
世界遺産における定義と三要素
ユネスコの世界遺産委員会は、1992年に「世界遺産条約履行のための作業指針」において文化的景観の概念を正式に盛り込んだ。世界遺産委員会の定義によれば、文化的景観は「自然と人間の組み合わせた作品を表す文化財」と位置づけられており、主に以下の三つの要素に分類される。
- 意匠された景観:庭園や公園、宗教的空間など、意図的に設計・形成された景観。
- 有機的に進化する景観:社会の様々な需要や経済的・社会的要請によって生まれ、その結果として自然環境と一体に成立した景観。農耕地や集落などがこれに該当する。
- 関連する景観:その土地の自然環境が宗教、芸術、学芸などと深く結びつき、文化的象徴として民族に大きな影響を与えている景観。
分類上は原則として文化遺産に位置づけられるが、自然的要素に特筆すべき点や顕著な普遍的価値が認められる場合には、複合遺産として登録されることもある。
世界遺産登録の歴史と主な事例
文化的景観を理由として登録された世界遺産の第1号は、ニュージーランドのトンガリロ国立公園である。同公園は1990年に自然遺産として登録されていたが、マオリの信仰の対象としての文化的側面が改めて評価され、1993年に文化的景観を含む複合遺産へと登録が変更された。
それ以降、世界各地で文化的景観に関連する物件が登録されている。日本国内においては、「紀伊山地の霊場と参詣道」や「石見銀山遺跡とその文化的景観」などが文化的景観を背景に持つ代表的な世界遺産として知られている。また、海外の事例としては、アフガニスタンの「バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群」や、ナイジェリアの「スクルの文化的景観」、ポルトガルの「シントラの文化的景観」などが挙げられる。