気候変動対策としての脱炭素の概念と動向
📌 主なポイント
- ✓脱炭素は、温室効果ガスの大気への排出量を実質ゼロにすることを目指す取り組みである。
- ✓IPCCのモデルに基づくカーボンバジェットは、2020年時点で残り約4,000億t-CO2と推定されている。
- ✓日本政府は2020年10月に2050年までのカーボンニュートラル実現を表明し、2021年10月に地球温暖化対策計画を閣議決定した。
- ✓化学的な観点から、「脱炭素」よりも「炭素循環」という用語のほうが適切とする意見が存在する。
脱炭素とは、気候変動問題による被害を最小限に抑えるため、温室効果ガスの大気への排出量を実質的にゼロにすることを目指す取り組みや概念である。従来より二酸化炭素(CO2)の排出量を抑えた低炭素社会から一歩進み、実質ゼロを目指す「脱炭素社会」や「ゼロカーボンシティ」を掲げる動きが国内外で見られるようになった。
概要とカーボンバジェット
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5℃特別報告書が示すように、産業革命以降の気温上昇を1.5℃未満に抑制するためには、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする必要がある。1.5℃の気温上昇を回避するために残された排出量の総量はカーボンバジェットと呼ばれ、2020年時点で残り約4,000億t-CO2と推定されている。近年のCO2排出量は年間で約330億t-CO2に上っており、このペースが続けば2030年代にはカーボンバジェットを使い切ると予測されている。
日本における政策と企業の動向
日本政府は、2020年10月に2050年までのカーボンニュートラル実現を正式に表明した。これを受けて、2021年10月に地球温暖化対策計画が閣議決定され、再生可能エネルギーの最大限の導入や各産業における省エネルギー性能の高い設備・機器の導入促進などが盛り込まれた。
また環境省は、企業が気候変動関連の経営戦略を策定する動きを支援しており、脱炭素経営による企業価値向上を促進するプログラムを展開している。これには、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に則った情報開示のほか、SBT(Science-Based Targets)やRE100といった国際的なイニシアチブを通じた再生可能エネルギー目標の設定支援が含まれている。
用語に関する議論
「脱炭素」という表現については、科学(化学)的な観点から適切ではないとする意見も存在する。石炭や石油などの化石燃料には炭素(C)が含まれており、燃焼によって二酸化炭素が発生する。しかし、人間を含むあらゆる生物も炭素を含む有機物で構成されているため、「脱炭素」という言葉は生物の存在まで否定するような誤解を与える懸念がある。
社会が本来求めているのは、CO2の排出量と吸収量が均衡し、植物の光合成などを通じて炭素が循環する状態である。そのため、学術界の一部からは「脱炭素」ではなく「炭素循環」という用語を使用する方が科学的に適切であるという指摘がなされている。
よくある質問
脱炭素とカーボンニュートラルの違いは何ですか?
カーボンバジェットとは何ですか?
なぜ「脱炭素」という用語に批判的な意見があるのですか?
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参考文献
日本化学会. “科学(化学)的に正しい「炭素循環」を我が国が目指す社会の用語として使おう!”. 『化学と工業』第75巻9月号, 2022年.
地球温暖化防止に取り組むNPO/NGO 気候ネットワーク. “1.5℃目標に向け、2030年までに温室効果ガス50%削減以上の実現を”, 2020年.
環境省. “脱炭素経営による企業価値向上促進プログラムについて”, 2018年.
日本経済新聞. “温暖化ガス、2050年ゼロ表明”, 2020年.