社会言語学

ダイグロシア:社会における言語変種の機能的使い分け

ダイグロシア:社会における言語変種の機能的使い分け
ダイグロシアとは、同一社会内で二つの言語変種が異なる機能に応じて使い分けられる社会言語学の概念です。その定義、歴史的背景、およびバイリンガリズムとの違いを解説します。

📌 主なポイント

  • ダイグロシアは、社会言語学者チャールズ・A・ファーガソンが1959年に提唱した概念である。
  • H変種(高位)とL変種(低位)が、異なる社会的場面で機能的に使い分けられる状態を指す。
  • バイリンガリズムが個人の能力を指すのに対し、ダイグロシアは社会的な言語配置を指す。

ダイグロシア(英: diglossia)とは、ある特定の社会において、二つの言語変種(または二つの言語)が、それぞれの社会的機能に応じて使い分けられている状態を指す社会言語学の概念です。この用語は、ギリシア語で「二言語」を意味する語に由来します。

概念の提唱と定義

ダイグロシアの概念は、言語学者チャールズ・A・ファーガソンによって1959年に提唱されました。ファーガソンは、社会において「高位変種(H変種)」と「低位変種(L変種)」が共存し、それぞれが特定の場面や用途で厳格に使い分けられる状況を定義しました。

  • H変種(High variety):公的な演説、宗教的儀式、教育、文学作品など、フォーマルな場面で使用される言語変種。通常、文法的に複雑で、高い威信を伴います。
  • L変種(Low variety):家庭内での会話、友人との交流、市場でのやり取りなど、日常的でインフォーマルな場面で使用される言語変種。

ファーガソンは、ギリシャ語のカサレヴサ(H)とデモティキ(L)、アラビア語のフスハー(H)とアーンミーヤ(L)などを典型的な例として挙げました。

世界の言語分布図
世界の言語分布図

バイリンガリズムとの違い

ダイグロシアバイリンガリズム二言語併用)は、複数の言語コードを扱うという点で共通していますが、その焦点が異なります。バイリンガリズムが個人の言語能力や使用状態を指すのに対し、ダイグロシアは社会全体における言語の機能的配置に着目した用語です。

概念の拡張

後にジョシュア・フィッシュマンは、ファーガソンの概念を拡張し、同一言語の変種間だけでなく、全く異なる二つの言語が社会的に使い分けられる状況にもこの概念を適用しました。例えば、植民地支配下における支配層の言語と被支配層の言語の使い分けなどがこれに該当します。さらに、三つ以上の言語変種が使い分けられる状況は「トリグロシア」や「ポリグロシア」と呼ばれます。

よくある質問

ダイグロシアとバイリンガリズムの主な違いは何ですか?
バイリンガリズムは個人の言語使用能力に焦点を当てた概念ですが、ダイグロシアは社会全体の中で二つの言語変種がどのように機能的に使い分けられているかという社会構造に焦点を当てています。
H変種とL変種とは何ですか?
H変種(High variety)は公的・フォーマルな場面で用いられる威信の高い変種で、L変種(Low variety)は日常会話などのインフォーマルな場面で用いられる変種を指します。
トリグロシアとは何ですか?
ダイグロシアの概念を拡張したもので、社会において三つの言語変種が使い分けられている状態を指します。

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参考文献

  • Ferguson, Charles A. (1959). "Diglossia". Word, 15(2), pp.325-40.
  • 田中春美・田中幸子『よくわかる社会言語学』ミネルヴァ書房、2015年。
  • 東照二『社会言語学入門―生きた言葉のおもしろさに迫る(改訂版)』研究社、2009年。
  • コリン・ベーカー『バイリンガリズムと第二言語習得』大修館書店、1996年。