一酸化二水素(DHMO)に関する科学ジョークと社会的影響

📌 主なポイント
- ✓一酸化二水素(DHMO)は、化学式 H2O で表される一般的な「水」の別称である。
- ✓1983年のエイプリルフール記事が起源の一つとされ、1994年にインターネット上でジョークサイトが開設されたことで広く知られるようになった。
- ✓専門的な名称や限定的なネガティブ情報を用いることで、人々が安全な物質を危険と誤認しやすい心理的傾向を示す題材として心理実験等で利用されている。
一酸化二水素(英: dihydrogen monoxide、略称: DHMO)とは、安全で身近な物質である水をあえて専門的な用語で表現することで、危険な化学物質であるかのように誤認させることを目的とした科学ジョーク、および心理実験の題材である。

化学式 H2O で表される水素と酸素の化合物をIUPAC命名法に従って英語で表現したものであり、同様の命名法を日本語に適用した場合は一酸化二水素となる。実際の科学論文や公式な文書において、水をこのような名称で呼ぶことはまずない。
歴史的背景と発展
DHMOのジョークが最初に登場したのは、1983年にカナダの新聞『Durand Express』紙が掲載したエイプリルフール記事であるとされる。その中では、DHMOが「水道管で発見された」「気化ガスを吸い込むと水ぶくれができる」といった危険性がシンプルな説明とともに報じられ、記事の末尾で水に関するジョークであることが明かされた。

インターネットの普及に伴い、このジョークは世界的に広く知られるようになった。1990年には、アメリカのカリフォルニア大学サンタクルーズ校の学生らがDHMOの危険性を主張する文章をインターネット上に掲載した。さらに1994年には、同校の学生であるクレイグ・ジャクソンが「DHMOを禁止する会」(The Coalition to Ban DHMO)を立ち上げ、世界初とされるDHMOのジョークサイト「DHMO.org」を開設した。
心理実験と社会的影響
1997年、アイダホ州の中学生ネイサン・ゾナーが「人間はいかにだまされやすいか?」と題した調査を実施し、DHMOは広く社会的な注目を集めた。この調査では、同級生を対象に、非日常的な科学技術用語を用いて水の性質を否定的かつ感情的な言葉で説明したうえで「この物質は法で規制すべきか」と問いかけたところ、多くの被験者が規制に賛成したとされる。

日本国内でも同様の心理学的研究が行われており、2021年の研究では、耳なじみのない名称(エチルハイドレート、ソディウムクロライドなど)を使用しつつ、ネガティブな性質を限定的に提示することで、人々がその物質の規制を求める傾向が統計的に有意に高まることが確認されている。このような手法は、情報の提示方法や専門用語の使い方が人々の判断に与える影響を示す好例として、科学教育やリスクコミュニケーションの文脈で取り上げられることがある。
解説例に見られる特徴
DHMOの解説文は、すべて事実に基づきながらも、視点を極端に限定して聞き手に恐怖心や警戒心を抱かせる構造を持っている。
- 酸性雨の主成分である酸(水酸)の一部を構成する。
- 重篤なやけどの原因となり得る(熱せられた水蒸気による)。
- 地形の侵食や材料の腐食、さび付きを進行させる。
- 末期がん患者の悪性腫瘍からも検出される。
反面、その利用実態として工業用の溶媒や冷媒、原子力発電所、防火剤などへの使用が挙げられるが、これらもすべて通常の水に関する記述である。
よくある質問
一酸化二水素(DHMO)の正体は何ですか?
なぜ一酸化二水素という危険な表現が使われるのですか?
DHMOジョークは実際に社会で誤解を招いたことがありますか?
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参考文献
- 左巻健男『恐ろしげな化学物質「ジハイドロゲンモノオキサイド」の正体とは?』ダイヤモンド社、2021年3月6日。
- 小松佐穂子, 良元裕太「物質の名称の不明瞭さが人の判断に及ぼす影響: DHMO は,規制すべき物質か?」『徳山大学総合研究所紀要』第43巻、2021年、19-30頁。
- 孕石泰孝「リスク・ベネフィットをふまえた環境教育プログラムの開発: 「化学物質DHMO,いかにすべきか」の授業」日本理科教育学会全国大会要項、2014年。