航空工学

ダイバータレス超音速インレットの構造と特徴

ダイバータレス超音速インレットの構造と特徴
軍用機のエアインテークにおけるダイバータレス超音速インレット(DSI)の仕組みや開発の歴史、ステルス性への効果について解説します。

📌 主なポイント

  • ダイバータレス超音速インレット(DSI)は、境界層隔壁を排除し、インテーク前の隆起部で境界層を処理するエアインテークの形態である。
  • 1990年代初頭からロッキード・マーティン社によって研究が進められ、1996年にはF-16を改造した実験機が初飛行に成功した。
  • 可動部品を持たないため、機体の軽量化、構造の簡素化、および整備性や信頼性の向上に寄与する。
  • インテーク内のファンブレードを隠す形状により、機体正面からのレーダー反射断面積(RCS)を減少させ、ステルス性を高める効果がある。

ダイバータレス超音速インレット(Diverterless Supersonic Inlet、略称:DSI)とは、軍用機のジェットエンジン向けエアインテーク(吸気口)の一形態であり、従来の機体と吸気口の間に設けられていた境界層隔壁(ダイバータ)を排除した形状を指す航空工学上の技術である。

動作原理と構造

通常、航空機の機体表面には、周囲の空気と比較して相対的に速度が遅くエネルギーの低い境界層空気流が流れている。この境界層空気をそのままエンジンが吸い込むと、エンジン効率の低下を招く原因となる。これを防ぐため、従来機ではエアインテークと機体の間に隙間(境界層隔壁)やスプリッターベーンを設けて気流を分離していた。

一方、DSI方式では、エアインテークの直前に設けた独自のふくらみ(隆起部)によって境界層空気流を押しやり、圧縮して切り裂く仕組みを採用している。これにより、可動部分を一切持たずに効率的な吸気を行うことが可能となっている。

F-16とDSIの効果を実験するため改造されたF-16 DSIとの比較写真
F-16(写真上)とDSIの効果を実験するため改造されたF-16 DSI(写真下)との比較。通常型と比べ、F-16 DSIは境界層分離壁がなくなりエアインテーク上部がふくらんでいるのが分かる。

開発の歴史

DSIに関する研究は、1990年代初頭からロッキード・マーティン社によって進められた。1996年12月11日には、F-16 Block 30のエアインテークをDSI仕様に改造した「F-16 DSI」が初飛行を実施した。この試験飛行では、従来型と同等の特性を維持しつつ最大マッハ2.0の速度を発揮できることが実証され、むしろ亜音速域における余剰出力が若干向上する結果が得られた。この成果が、のちにF-35などの設計へと活かされることになった。

利点とステルス性への影響

DSI方式の最大の利点は、複雑で重量のある可変式ランプやショックコーンなどの可動機構を排除できる点にある。これにより、機体の軽量化や整備性、信頼性の向上に大きく寄与している。例えばF-35では、通常型のインテークと比較して約30%の重量軽減を達成している。

また、インテーク前方に設けられた三次元的なふくらみは、エンジンファンブレードを外部から隠す役割も果たす。これにより、機体正面からのレーダー波の侵入や反射を抑制し、RCS(レーダー反射断面積)の低減すなわちステルス性の向上に寄与するという副次的な効果を持つ。そのためF-35をはじめとする一部のステルス戦闘機に採用されている。

ただし、DSIは必ずしも全てのステルス機に装備されるわけではない。例えばF-22ではDSIを採用せず、インテーク先端に電波吸収素材(RAM)を塗布する手法でステルス性を確保している。

よくある質問

DSIとはどのような技術ですか?
軍用機のエアインテークにおいて、従来の境界層隔壁(ダイバータ)を無くし、インテーク前方のふくらみによって気流を制御する構造のことです。
DSIにはどのようなメリットがありますか?
可動部分がないため軽量化や整備性の向上が図れるほか、構造が簡素になり、ステルス性の向上にも寄与する点があげられます。
すべてのステルス機にDSIが採用されていますか?
いいえ、必ずしもすべてのステルス機に採用されているわけではなく、例えばF-22ではDSIではなく電波吸収素材(RAM)を用いるなど、別の手法でステルス性を確保しています。

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軍用機ステルス機エアインテークF-35F-16ロッキード・マーティン

参考文献

  • Hehs, Eric (2000年7月15日). “JSF ダイバータレス超音速インレット”. Code One magazine. Lockheed Martin.
  • AirForceWorld.com 関連資料・各記事