言語学

初期近代英語の言語的特徴と歴史的変遷

初期近代英語の言語的特徴と歴史的変遷
1450年頃から1650年頃にかけて使用された初期近代英語の言語的特徴、正書法、文法、および歴史的背景を解説します。

📌 主なポイント

  • 初期近代英語の期間は概ね1450年頃から1650年頃までとされる。
  • 正書法が統一されておらず、文字の混用や綴りの揺れが頻繁に見られた。
  • 二人称単数代名詞として「thou」が使用されていた。
  • 三人称単数現在の動詞語尾として「-eth」が用いられていた。

初期近代英語(Early Modern English)は、中英語の末期にあたる1450年頃から、1650年頃までの英語を指す言語学的区分です。この時期の英語は、現代英語の直前段階に位置しており、現代の英語話者にとっても一定の理解が可能な程度に構造が近接しています。

歴史的背景と文献

この時代の英語は、ウィリアム・カクストンによる印刷術の導入(1476年)や、チューダー朝の成立に伴う社会の安定化を経て発展しました。代表的な文献としては、ウィリアム・シェイクスピアの著作や、1611年に刊行された欽定訳聖書が挙げられます。特に欽定訳聖書は、当時の口語とは異なる古風な語法を保持しており、英語の標準化に大きな影響を与えました。

ウィリアム・シェイクスピアの墓碑
初期近代英語の綴りの特徴が見られるウィリアム・シェイクスピアの墓碑。

正書法の不安定さ

初期近代英語の正書法は現代と似通っているものの、確立された統一ルールが存在せず、綴りは非常に不安定でした。主な特徴として以下が挙げられます。

  • 文字の混用: 「s」には短いsと長いs(ſ)の2種類が存在しました。また、「u」と「v」、「i」と「j」はそれぞれ同じ文字の別字形として扱われていました。
  • ソーン(Þ)の変形: 古い文字であるソーン(Þ)は、印刷においてしばしば「Y」に置き換えられました。
  • 無音のe: 語尾に無音のeを付加する習慣があり、これにより語尾の子音が重ねられることもありました(例: manne, runne)。
  • 母音の表記: /ʌ/の音は、しばしば「o」で表記されました(例: sommer, plombe)。

綴りの揺れは顕著で、例えば「Julius Caesar」は「Ivlivs Cæſar」や「Jvlivs Cæſar」など、複数の形式で綴られることが一般的でした。

文法の特徴

代名詞

二人称代名詞において、現代英語とは異なる体系を持っていました。単数には「thou」、複数および丁寧な表現には「ye」や「you」が用いられました。また、所有格の「my/thy」と「mine/thine」の使い分けは、後続する名詞が子音で始まるか母音で始まるかによって決定されていました。

動詞

動詞の活用には、現代とは異なる語尾が見られました。二人称単数現在では「-est」(例: thou takest)、三人称単数現在では「-eth」(例: he taketh)が用いられていました。また、否定文の形成において「do」を用いない形式(例: go not)が広く行われていました。

よくある質問

初期近代英語は現代英語とどの程度違いますか?
現代英語の直前段階であるため、現代の英語話者でも文脈から内容を理解できる程度に近接しています。
なぜ初期近代英語では綴りが不安定だったのですか?
当時はまだ正書法が完全に確立されておらず、印刷師や筆者によって綴りの習慣が異なっていたためです。
「長いs(ſ)」とは何ですか?
初期近代英語で使われていた「s」の書体の一つで、語頭や語中で用いられました。語尾には現在の「s」と同様の短い形が使われました。

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参考文献

  • Burroughs, Jeremiah; Greenhill, William (1660). The Saints Happinesse.
  • Sacks, David (2004). The Alphabet. London: Arrow. p. 316. ISBN 0-09-943682-5.
  • Sacks, David (2003). Language Visible. Canada: Knopf. pp. 356–57. ISBN 0-676-97487-2.
  • Skeat, Walter William (1891). Principles of English Etymology, Second Series. Clarendon Press. p. 99.
  • Denison, David (1993). English Historical Syntax. Routledge. ISBN 978-0582291393.
  • Ramón Varela Pérez, José (1997). "The use of periphrastic do in Early Modern English negative declaratives: evidence from the Helsinki Corpus". SEDERI 8: 35-43.