航空工学
航空機用動翼「エレボン」の構造と歴史的展開

航空機の補助翼と昇降舵の機能を兼ね備えた動翼「エレボン」について、無尾翼機やデルタ翼機における仕組み、歴史的背景、実用航空機での運用例を解説します。
📌 主なポイント
- ✓エレボンは補助翼(エルロン)と昇降舵(エレベーター)の機能を兼ね備えた動翼であり、おもに無尾翼機で使用される。
- ✓第二次世界大戦中からホルテン Ho229やノースロップ N-1Mなどの全翼機や研究機に採用されていた。
- ✓イギリス空軍の戦略爆撃機アブロ バルカンB.2や、コンベアF-102デルタダガーなどの初期の超音速機に実用採用された。
エレボン(英語: elevon)またはテールロン(英語: tailerons)は、航空機の飛行制御に用いられる動翼の一つである。おもに水平尾翼を有しない無尾翼機において採用されている。

基本構造と動作原理
エレボンという名称は、補助翼を意味する「エルロン(aileron)」と、昇降舵を意味する「エレベーター(elevator)」の2つの単語を組み合わせた造語である。その名の通り、両方の機能を単一の動翼で兼ね備えている。
主翼の後縁に左右対称に取り付けられており、左右の動翼を同一方向に作動させると昇降舵として機能して機首の上下動を制御し、それぞれ逆方向に作動させると補助翼として機能してロール(横揺れ)を制御する。両方の機能を同時に使用する場合は、それぞれの方向を合成した位置へと動翼が駆動される。
歴史的背景
エレボンの概念や基本的な仕組みは、第二次世界大戦頃にはすでに知られており、ナチス・ドイツの全翼機であるホルテン Ho229や、アメリカのノースロップ N-1Mなどの動翼として採用された歴史を持つ。

実用航空機における運用例
エレボンは、さまざまな軍用機や実用機において発展・採用されてきた。
- アブロ バルカン:イギリス空軍のVフォースによって運用された戦略爆撃機である。初期の量産機であるバルカンB.1にはエレボンが存在せず、デルタ翼に沿ってインボードエレベーターとアウトボードエルロンを配置して飛行制御を行っていた。しかし、その後の大幅な設計変更を伴うバルカンB.2においてエレボンが採用され、従来のエレベーターとエルロンをあわせて8本のエレボンに変更された。低速飛行時には、エレボンが6個の電動3姿勢エアブレーキと密接に連動して作動する仕組みになっている。
- コンベアF-102デルタダガー:アメリカ空軍が運用した初期の迎撃機であり、主翼にエレボンが導入された代表的な機体の一つである。また、コンベア社は数年後に超音速戦略爆撃機であるB-58 ハスラーにもエレボンを装備している。
デルタ翼機における課題と技術的改善
従来型の無尾翼デルタ機では、主翼後縁にフラップを設けることが構造上難しく、離着陸時の機首上げ姿勢をとる際にエレボンを上げ舵にすると揚力が減少してしまうという短所があった。
こうした課題に対し、ダッソー ミラージュ2000などの機体では、静的安定性の緩和とフライ・バイ・ワイヤシステムを導入することで、エレボンを下げ舵にしても機首上げが可能となり、運動性の向上が図られている。また、カナード(先尾翼)の設置も失特性の改善や機首上げモーメントの向上に有効であり、ミラージュミランやクフィールをはじめとしたカナード付きデルタ翼機で広く採用された。
よくある質問
エレボンとはどのようなものですか?
エレボンは、飛行機の補助翼(エルロン)と昇降舵(エレベーター)の役割を1つで兼ね備えた動翼です。主翼の後縁に設置され、左右の動きを組み合わせることで機体のロール制御とピッチ制御を行います。
どのような航空機に採用されていますか?
おもに水平尾翼を持たない無尾翼機やデルタ翼機に採用されています。歴史的にはホルテン Ho229やノースロップ N-1M、実用機ではアブロ バルカンB.2やコンベアF-102デルタダガー、ミラージュ2000などに採用された実績があります。
デルタ翼機におけるエレボンの課題は何ですか?
従来型の無尾翼デルタ機では主翼後縁にフラップを設けにくく、離着陸時に機首上げ姿勢をとるためエレボンを上げ舵にすると揚力が減少するという短所がありました。これはフライ・バイ・ワイヤの導入やカナードの設置などによって改善されました。
関連記事
エルロン昇降舵無尾翼機デルタ翼カナードフライ・バイ・ワイヤ
参考文献
日本航空. “航空実用事典”. 2019年6月1日閲覧。
松崎豊一「デルタダガーの開発と、そのシステム」『コンベアF-102デルタダガー』文林堂〈世界の傑作機 No.81〉、2000年。ISBN 978-4893190789。
“Northrop N1M”. NATIONAL AIR AND SPACE MUSEUM. 2019年6月2日閲覧。
Peacock, Lindsay (1986). “Delta Dart: Last of the Century Fighters”. NASA.
Spearman, M Leroy (1984). “Some aerodynamic discoveries and related NACA/NASA research programs following World War 2”. NASA.
『ダッソーミラージュ2000』イカロス出版〈世界の名機シリーズ〉、2011年。ISBN 978-4863203686。
浜田一穂「バイオグラフィー・オブ・ミラージュIII」『ダッソー・ミラージュIII』文林堂〈世界の傑作機 No.70〉、1998年。ISBN 978-4893190673。
松崎豊一「デルタダガーの開発と、そのシステム」『コンベアF-102デルタダガー』文林堂〈世界の傑作機 No.81〉、2000年。ISBN 978-4893190789。
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Peacock, Lindsay (1986). “Delta Dart: Last of the Century Fighters”. NASA.
Spearman, M Leroy (1984). “Some aerodynamic discoveries and related NACA/NASA research programs following World War 2”. NASA.
『ダッソーミラージュ2000』イカロス出版〈世界の名機シリーズ〉、2011年。ISBN 978-4863203686。
浜田一穂「バイオグラフィー・オブ・ミラージュIII」『ダッソー・ミラージュIII』文林堂〈世界の傑作機 No.70〉、1998年。ISBN 978-4893190673。