歴史・社会

歴史的・社会的背景からみる飢饉の実態と要因

歴史的・社会的背景からみる飢饉の実態と要因
飢饉(ききん)の定義、主な発生原因、食糧配分の問題、および日本やアジア・ヨーロッパにおける歴史的な事例について解説する百科事典記事です。

📌 主なポイント

  • 飢饉とは、一地域における死亡率を急激に上げるような極端な食料不足および飢餓状態を指す。
  • 主な原因には、火山の噴火や旱魃などの自然災害だけでなく、戦争や食糧配分の不全といった人為的・社会的要因が含まれる。
  • 歴史上、日本、中国、朝鮮半島、インド、アイルランドなどで大規模な飢饉が発生し、多くの犠牲者を出した。
  • 20世紀後半以降の農業技術の向上や輸送網の発達、人道支援により、飢饉の発生は大幅に減少している。

飢饉(ききん、英: famine)とは、何らかの要因によって特定の地域社会の住民が極度な飢餓状態に陥り、一地域における死亡率を急激に上昇させるような深刻な食糧不足の事態を指す。漢字の「饑」は穀物が稔らないこと、「饉」は蔬菜(野菜)が熟さないことを意味している。

歴史上、主食とする農産物の大規模な不作を契機として発生することが多く、戦乱や領土拡張の背景ともなってきた。しかし、1940年代から1960年代にかけての農業技術の向上(緑の革命)や、その後の輸送網の発達、21世紀以降の国際的な人道援助の広がりにより、その発生は大幅に減少している。

主な発生原因

飢饉の原因は一様ではなく、自然災害や人為的要因、さらには社会的な食糧配分の仕組みなど、複数の要素が複雑に絡み合って発生する。

食糧の絶対的不足

食糧の不足は、主に自然災害や人為的な混乱によって引き起こされる。自然災害としては、火山の噴火による成層圏の日照遮断(火山の冬)や、地震による農地および灌漑設備の破壊、台風による浸水被害、長雨や日照り、旱魃、さらにバッタの蝗害などの虫害や植物病害、疫病による農業従事者の減少が挙げられる。

一方、人為的な要因としては、戦争(内戦や対外戦争)、商工・農業政策の失敗、交通網の途絶による物資輸送の阻害、利潤追求を目的とした投機や買占めなどが挙げられる。

食糧の配分と社会的要因

絶対的な食糧不足が発生しても、必ずしも地域全体の住民が均等に餓死するわけではない。歴史的記録においても、飢饉発生時に一部の人々が深刻な飢餓に苦しむ一方で、別の層には十分な食糧が存在している事例や、食糧が外部へ運び出される事例が見られる。また、都市部では農村部に比べて餓死者が少ない傾向があった一方で、避難民の流入による衛生環境の悪化から疫病が流行するケースが多々あった。このため、飢饉の本質的な原因の一つには、食糧の流通や分配の不全、すなわち貧困層が食糧を入手できない社会構造の問題も含まれる。

地域別の歴史的展開

日本における飢饉

'続日本紀'などの史料によれば、奈良時代においても多くの飢饉に関する記述が残されており、朝廷は医者や物資の派遣、大赦の実施などによって対応していた。16世紀以降の寒冷化や、江戸時代における天明の大飢饉や天保の大飢饉などの四大飢饉をはじめとして、しばしば甚大な被害をもたらした。明治時代以降も東北地方を中心に凶作に見舞われ、昭和初期には昭和農業恐慌と呼ばれる深刻な事態が発生した。

アジアにおける飢饉

中国大陸においては、古代の旱魃や八王の乱に伴う流民の発生をはじめ、近代以降では1877年から1878年の大干ばつや、1960年代の大躍進政策に伴う大規模な飢饉が記録されている。朝鮮半島でも古くから天候異変による飢饉や疫病の記録があり、1990年代中期には経済危機や水害等によって多数の餓死者が発生した(苦難の行軍)。また、ベトナムでは第二次世界大戦末期の1945年に、気象災害や軍事的な輸送網の破壊、作物の転換などが複合して大飢饉が発生した。インドにおいては、イギリスによる植民地統治の下で自給型農業が変質し、過酷な負担や飢饉に対する不十分な救済策のもとで多くの犠牲者を出した。

ヨーロッパにおける飢饉

西ヨーロッパでは1315年から1317年にかけての大規模な飢饉をはじめ、19世紀に至るまで飢饉が繰り返し発生した。特にアイルランドでは1845年から1849年にかけて発生したジャガイモ飢饉により100万人以上の餓死者を出し、北アメリカ大陸への大量の移住の契機となった。

被害と社会的影響

飢饉は、高齢者や子供、病弱な者、および経済的に困窮する貧困層に最も深刻な被害をもたらす。餓死にとどまらず、免疫力の低下による疫病の蔓延や、通常食用としないものを摂取することによる体調不良での死亡を引き起こす。また、食糧を求めた人口移動や暴動の発生による治安の悪化、家屋や農地の売却による長期的な経済格差の拡大要因ともなる。

よくある質問

飢饉と通常の食糧不足は何が異なりますか?
通常の食糧不足が単なる供給の低下を意味するのに対し、狭義の飢饉は一地域における死亡率を急激に高めるような極端な飢餓状態や社会的な崩壊を伴う事態を指します。
飢饉はなぜ発生するのですか?
自然災害(火山噴火や干ばつなど)や人為的要因(戦争や政策の失敗)による食糧の絶対的不足に加え、食糧の不公正な配分や流通の途絶といった社会的要因が複合して発生します。
近代以降に飢饉が減少した理由は何ですか?
1940年代から1960年代にかけての緑の革命による農業生産量の増大、国内外の輸送網の発達、および21世紀以降の国際的な人道援助の広がりが主な理由です。

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飢餓自然災害緑の革命農業歴史

参考文献

大阪市立衛生試験所家事衛生研究部「救荒植物」『家事と衛生』第16巻第3号、1940年。
二木敏篤, 井手口敬「飢饉の歴史地理学的研究 : インドを中心として[3]」『九州産業大学国際文化学部紀要』7, 1996年。
高橋正樹「超巨大噴火と「火山の冬」」『エアロゾル研究』第27巻第3号、2012年。