地球科学

氷河の科学的特性と日本国内における発見の歴史

氷河の科学的特性と日本国内における発見の歴史
地球表面を流動する氷体である氷河の定義、分類、形成プロセスから、立山連峰や飛騨山脈などで確認された日本国内の氷河に関する最新の調査結果までを解説する事典記事です。

📌 主なポイント

  • 氷河は重力によって継続的に流動する巨大な氷体であり、地球の陸地面積の約11%を覆っている。
  • 2012年4月、立山連峰や剱岳の雪渓が日本初の「氷河」として学会に報告され、極東の氷河の南限が日本であることが確認された。
  • 2018年にカクネ里雪渓が論文発表を経て氷河として確定し、その後も追加の調査により国内で確認された氷河の数は増加している。

氷河(ひょうが、英: glacier)とは、地球表面にあって重力などの力によって継続的に流動する大きな氷体を指す。狭義には山岳地域の氷河である山岳氷河を意味し、広義には氷帽や氷床なども含めた概念として扱われる。地球上の気候変動や海面変動と密接に関わっており、現代においては地球温暖化にともなう面積・質量の減少が大きな環境問題となっている。

氷河の定義と分類

国際的に参照されることの多い定義として、リチャード・フォレスト・フリント(Richard Foster Flint)による「積雪が自然に堆積して形成した大きな雪氷体で、大部分が陸上に存在し、現在流動しているかあるいは過去に流動したことのあるもの」というものが挙げられる。また、国際氷河学会などは気候変動に関する国際枠組み条約における「氷河とは停滞あるいは流動している多年性の氷体」との定義や、国際目録における面積基準などに賛同を示している。

国際雪氷委員会(ICSI)の分類表では、大陸氷床、氷原、氷帽、溢流氷河、谷氷河、山腹氷河、小氷河・雪原、棚氷、岩石氷河の9種類に大別される。さらに、形態、末端部形状、縦断面形状、涵養源、末端部活動などの詳細な基準によって分類・数値化されることがある。

末端が海や湖に流れ込んでいる氷河はカービング氷河(calving glacier)と呼ばれ、崩落や分離によって氷山を形成する現象(氷山分離)を引き起こす。

南米ペリト・モレノ氷河の末端
南米、ペリト・モレノ氷河の氷河末端

氷河の形成プロセス

比較的温度の高い氷河は、融解と凍結を繰り返すざらめ雪(ネヴェ)を主成分として形成される。この雪は氷と雪の層の下で圧力を受けて融解し、フィルンと呼ばれる氷の粒に変化する。年月を経てさらに圧縮されることで、最終的に高密度の氷河の氷(glacial ice)へと変化していく。

雪から氷河氷に至るまでの形成過程
氷河の形成過程

世界の氷河の分布

巨大な氷床は現在、南極大陸とグリーンランドにのみ存在する。一方、氷原はアイスランドや北極海の島々、北太平洋山脈からアラスカにかけての地域などに広く分布している。陸上に見られる氷河の総面積は約1,633万平方キロメートルに及び、これは地球の陸地面積の約11%を占めている。

スイス・アルプスの氷河とモレーン
スイス・アルプスの氷河 モレーン(黒い線)が氷上にみられる
ノルウェーのブリックスダール氷河
ノルウェーの ブリックスダール氷河
アイスランドのヨークルスアゥルロゥン湖
氷河の周囲には氷河湖が形成される場合がある。アイスランドのヨークルスアゥルロゥン湖

日本国内における氷河の発見と確認

かつて日本国内には現存する氷河はないとされていたが、2000年代以降の調査によって状況が一変した。1999年に立山内蔵助カール内で永久凍土が発見されたことを契機に長年の調査が進められ、2012年4月に日本雪氷学会が立山連峰および剱岳の雪渓(御前沢雪渓、三ノ窓雪渓、小窓雪渓)に氷河が現存する可能性を報告した。これにより、極東の氷河の南限が富山県の立山連峰であることが示された。

鹿島槍ヶ岳から望む剱岳の三ノ窓氷河と小窓氷河
鹿島槍ヶ岳から望む剱岳の三ノ窓氷河と小窓氷河

その後も研究が進められ、2018年には飛騨山脈(北アルプス)の鹿島槍ヶ岳にあるカクネ里雪渓が論文審査を経て4例目の氷河として確定した。さらに、唐松沢雪渓などの確認を経て、2025年1月には白馬村に位置する杓子沢雪渓と不帰沢雪渓も氷河であることが確認され、日本国内で確認された氷河の数は合計9カ所に達している。

よくある質問

氷河とはどのようなものですか?
地球表面にあって、重力などの力によって継続的に流動する大きな氷体のことです。積雪が堆積・圧縮されて形成されます。
日本国内には現在いくつの氷河が確認されていますか?
長期にわたる現地調査や学会による確認を経て、立山連峰や飛騨山脈などの地域において合計9カ所の氷河が確認されています。
氷河はどのようにして形成されますか?
積雪が融解と凍結を繰り返してざらめ雪(ネヴェ)となり、下層の圧力によってフィルンと呼ばれる氷の粒を経て、最終的に圧縮されて氷河の氷へと変化します。

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氷床永久凍土雪渓圏谷モレーン気候変動

参考文献

吉田 勝「日本の氷河と世界の氷河―飛騨山脈カクネ里氷河見学会から(前編)」『地学教育と科学運動』第83巻、地学団体研究会、2019年、56-62頁。 榎本浩之「「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別報告書」を読み解く」国立環境研究所、2020年。 福井幸太郎、岩田修二「立山,内蔵助カールでの永久凍土の発見」『雪氷』第62巻第1号、2000年、23-28頁。 福井幸太郎、飯田肇、小坂共栄「飛騨山脈で新たに見出された現存氷河とその特性」『地理学評論』第91巻第1号、2018年、43-61頁。