言語学
英語史における大母音推移

英語の歴史において中英語期から近代英語期にかけて発生した母音体系の大きな変化「大母音推移」について、その概要と歴史的背景を解説します。
📌 主なポイント
- ✓大母音推移は1400年代初頭から1600年代前半にかけて発生した。
- ✓この変化により、英語の長母音の舌の位置が一段ずつ上昇した。
- ✓綴りと発音の乖離が生じた最大の要因の一つである。
大母音推移(だいぼいんすいい、英語: Great Vowel Shift)とは、英語の歴史において中英語期後期(1400年代初頭)から近代英語期(1600年代前半)にかけて発生した、強勢のある長母音体系の一連の音韻変化を指します。言語学者オットー・イェスペルセンによって命名されたこの現象は、現代英語の発音と綴り(スペル)の間に大きな乖離が生じた主要な要因の一つとして知られています。
概要とメカニズム
大母音推移の過程では、それまで存在していた長母音の舌の位置が一段ずつ上昇しました。この変化の結果、最も高い位置にあった長母音 [iː] と [uː] は、これ以上上昇することができず、二重母音化(音割れ)を起こしました。この体系的な変化により、中英語期までは発音と綴りが比較的忠実に対応していた英語の表記体系が、発音の変化に追いつかなくなり、現代に見られるような綴りと発音の不一致が定着しました。

15世紀中頃以降、活版印刷技術の普及により英語の綴りが固定化された一方で、発音はその後も変化を続けたため、この乖離はさらに顕著なものとなりました。
主な母音の変化
大母音推移における主要な変化は以下の通りです。
- 長母音 [aː] は二重母音 [eɪ] へ変化(例:name)
- 長母音 [εː] や [eː] は長母音 [iː] へ変化(例:feel)
- 長母音 [iː] は二重母音 [aɪ] へ変化(例:time)
- 長母音 [ɔː] は二重母音 [oʊ] へ変化(例:home)
- 長母音 [oː] は長母音 [uː] へ変化(例:fool)
- 長母音 [uː] は二重母音 [aʊ] へ変化(例:now)

原因に関する考察
この大規模な音韻変化が200年から300年という比較的短期間で完了した原因については、現在も言語学上の謎とされており、複数の説が提唱されていますが、決定的な定説には至っていません。
よくある質問
大母音推移とは何ですか?
中英語期から近代英語期にかけて英語の長母音体系が体系的に変化した現象です。
なぜ英語の綴りと発音は一致しないのですか?
大母音推移によって発音が変化した一方で、活版印刷の普及により綴りが固定化されたため、両者の間に乖離が生じました。
大母音推移の原因は何ですか?
短期間に起きた大規模な変化であるため、現在もその原因は特定されておらず、言語学上の議論が続いています。
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参考文献
- 寺澤盾『英語の歴史 過去から未来への物語』中央公論新社、2008年、104-109頁。
- 『現代英語学辞典』石橋幸太郎(編集代表)、成美堂、1973年、134頁、672頁。
- Millward, C. M.; Hayes, Mary (2011). A Biography of the English Language (3rd ed.). Wadsworth Publishing. p. 250.
- Nevalainen, Terttu; Traugott, Elizabeth Closs, eds (2012). The Oxford Handbook of the History of English. Oxford University Press. p. 794.