行政機関の法理と仕組み:日本法および欧米法における概念の解説
📌 主なポイント
- ✓行政機関とは、行政権の行使にたずさわる国家や地方の機関の総称である。
- ✓アメリカ行政法学では「agency(行政機関)」概念が重視され、ドイツ行政法学では「Behörde(行政庁)」概念が中心に据えられてきた。
- ✓日本法においては、権限分配の単位である講学上の行政機関と、国家行政組織法上の官署としての行政機関の区別が存在する。
- ✓講学上の行政機関は、機能によって行政庁、諮問機関、参与機関、監査機関、執行機関、補助機関の6種に分類される。
行政機関(ぎょうせいきかん)とは、国家や地方公共団体において行政権の行使にたずさわる機関を指す。国家の権力分立を前提とした場合、立法機関(立法府)や司法機関(裁判所)と対比される概念である。
欧米の行政法学における概念
行政法学において、行政活動を行う組織を認識するための枠組みは法体系によって異なる。アメリカの行政法学では一般に「行政機関」(英語: agency)という概念を用いてきたのに対し、ドイツの行政法学では「行政庁」(ドイツ語: Behörde)を中心とする行政官庁論が展開されてきた。
アメリカ行政法における行政機関の位置づけ
アメリカ合衆国憲法の下における行政機関の存在は、複数の法理やアプローチによって説明される。ピーター・ストラウス教授によれば、その位置づけは第1に専制政府の防止を目的とした権力分立、第2に手続的デュープロセスに基づく機能分離、第3に政府内に複数の長を配置して権力が集中することを防ぐ抑制と均衡(チェック・アンド・バランス)という3つの要素に区分される。
アメリカの連邦行政においては、農務省、商務省、国防総省、教育省、エネルギー省、保健福祉省、国土安全保障省、住宅都市開発省、内務省、司法省、労働省、国務省、運輸省、財務省、退役軍人省といった15の省が主要な役割を担っている。
ドイツ行政法学における行政庁概念
ドイツの行政法学では、「機関」という一般的な概念とは別に、一定のメルクマール(基準)によって定義される「行政庁」という概念が用いられてきた。歴史的にO・マイヤーやW・イェリネックのように独立した行政庁概念を重視しない立場があった一方で、F・フライナーやE・R・フーバーなどは機関と行政庁の関係について独自の理論を展開している。
日本法における行政機関の分類
日本法における「行政機関」概念には、権限分配の単位として用いられる講学上の行政機関と、行政事務の分配の単位として国家行政組織法上に規定される行政機関の大きく分けて二つの側面が存在する。
戦前の日本法学はドイツ法の影響を強く受けていたが、第二次世界大戦後は国家行政組織法においてアメリカ型の行政機関概念が導入されたため、伝統的な「行政庁」概念との関係性については法学上様々な議論がなされてきた。
講学上の行政機関概念
公法上の「行政主体」である国や地方公共団体は法人格を持つため、実際にその名義と責任において行為を手足となって実行するのは自然人によって構成される機関である。法律により一定の行政上の権限や責務を与えられた自然人またはその合議体を、講学上「行政機関」と呼ぶ。例えば、国の行政機関としての財務省における実質的な行政機関は「財務大臣」という職にある自然人であり、都道府県であれば「知事」がこれに該当する。
その機能に基づき、講学上は主に以下の6種に分類される。
- 行政庁:行政主体の法律上の意思を決定し、外部に表示する権限を持つ機関。独任制(内閣総理大臣、各省大臣、都道府県知事など)と合議制(内閣、公正取引委員会など)がある。
- 諮問機関:行政庁から諮問を受けて審議・調査し、意見を答申する機関(各種審議会など)。
- 参与機関:行政庁の意思決定に参画し、法的に拘束する議決を行う機関(電波監理審議会など)。
- 監査機関:行政機関の事務や会計の処理を検査し適否を監査する機関(会計検査院、地方自治体の監査委員など)。
- 執行機関:行政目的を実現するために実力行使を行う機関(警察官、自衛官、消防職員など)。
- 補助機関:行政庁その他の職務を補助し、日常的な事務を遂行する機関(副大臣、局長、一般職員など)。
国家行政組織法上の行政機関概念
国家行政組織法上の「行政機関」は、府・省・庁・委員会といった事務配分の単位としての官署そのものを指す。同法第1条により、内閣の統轄下にある行政機関のうち内閣府及びデジタル庁を除いたものが「国の行政機関」と位置づけられている。内閣府やデジタル庁、また内閣から独立した憲法機関である会計検査院なども、広義の公的行政機関としてそれぞれの法体系の中で位置づけられている。
よくある質問
行政機関とはどのような組織ですか?
講学上の行政機関にはどのような種類がありますか?
国家行政組織法上の行政機関とは何ですか?
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参考文献
小林博志「『行政庁』概念の位相」『早稲田法学会誌』第31号、1980年、129-159頁。
中川丈久「行政活動の憲法上の位置づけ」『神戸法学年報』第14号、1998年、125-225頁。
塩野宏 『行政法1 行政法総論(第四版)』 有斐閣、2005年。
櫻井敬子・橋本博之 『行政法〔第3版〕』 弘文堂、2011年。