日本における麻繊維の歴史と文化

📌 主なポイント
- ✓麻は植物の表皮や葉茎から採取される繊維の総称であり、大麻、苧麻、亜麻などが含まれる。
- ✓日本産業規格(JIS)および家庭用品品質表示法において「麻」と表示できるのは亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)の2種類である。
- ✓狭義の麻(大麻)は、神道の祭祀や大嘗祭の麁服(あらたえ)などに用いられる重要な伝統素材である。
- ✓縄文時代の遺跡から麻製の縄や籠が出土しており、日本における利用の歴史は極めて古い。
麻(あさ)は、植物の表皮の内側にある柔繊維、または葉茎などから採取される各種の植物繊維の総称である。日本では古来より和装の麻織物として重宝されてきたほか、神道をはじめとする伝統文化において多様な用途で利用されてきた。
麻の種類と法規上の定義
日本語における「麻」という言葉は、本来のアサ科アサ属の植物である大麻(Cannabis sativa)を指すだけでなく、歴史的経緯や流通上の理由から、イラクサ科の苧麻(ちょま、カラムシ / ラミー)やアマ科の亜麻(あま / リネン)など、幅広い植物繊維全般を指して使われてきた。
日本産業規格(JIS)および家庭用品品質表示法においては、繊維の名称として「麻」と表示できるのは原則として亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)の2種類であり、本来の狭義の麻(大麻)はこれに含まれない。流通している衣料品の多くは亜麻から作られるリネンである。
また、繊維としては羊毛や綿花に比べて硬い特性を持つことから、これらは「硬質繊維」に分類される。
歴史と考古学的背景
麻は世界最古の繊維作物の一つとされ、日本国内においては縄文時代の遺跡からも麻製の縄や籠が出土している。国立歴史民俗博物館などの研究により、縄文時代における植物利用の実態が明らかにされてきた。
弥生時代以降、日本国内では苧麻や大麻の栽培が行われ、『魏志倭人伝』や『後漢書倭伝』などの中国の歴史書にもその記述が見られる。中世から近世にかけては、越後国や会津国などで苧麻(青苧)の生産が盛んになり、奈良晒や越後上布といった上質な麻布の原料として供給された。
神事と伝統文化における利用
狭義の麻(大麻)は、古くから神道において極めて重要な役割を果たしてきた。神に捧げる布である「和幣(にぎて)」をはじめ、大麻(おおぬさ)や注連縄、弓道の弓の弦、横綱の化粧まわしなどに用いられている。
また、天皇即位の大嘗祭において阿波忌部が調進する神服「麁服(あらたえ)」の原料としても古くから指定されており、伝統的な神事や祭祀において欠かせない素材として継承されている。
類似・関連繊維
麻の範疇には含まれないものの、強靭な特性を持つ類似の植物繊維として、マニラ麻やサイザル麻が船舶用ロープなどに用いられてきた。また、コウマやシマツナソから得られるジュートは麻袋(ドンゴロス)の原料として利用されている。