歴史と技術から見る治水の概要

📌 主なポイント
- ✓治水は、洪水や高潮などの水害、土砂災害から人間の生命や財産を防御するための事業である。
- ✓日本語の「治水」は、洪水調節だけでなく砂防や治山も含む広い意味を持つ。
- ✓いかなる対策を講じてもすべての水災害を防ぐことは不可能であり、防御水準の設定が立脚点となる。
- ✓近代以降の構造物中心の治水から、近年では自然環境の保全や復元を重視する動きへ移行しつつある。
治水(ちすい)とは、洪水、高潮といった水害や、地すべり、土石流、急傾斜地崩壊などの土砂災害から人間の生命、財産、生活を防御するために行う事業を指す言葉である。具体的には、堤防、護岸、ダム、放水路、遊水池などの整備や、河川流路の付け替え、河道浚渫による流量確保、氾濫原における人間活動の制限などがこれに含まれる。
治水の概要と必要性
水は人間生活にとって不可欠な資源であると同時に、水害や土砂災害などの深刻な危険ももたらす。水の持つ危険性を制御しようとする試みが治水であるが、一方で水を資源として使用するための制御である利水も必要不可欠である。水の制御に取り組むという点において、治水は利水と共通性を持ち、両者には不可分の関係が生じる。そのため、広義の治水には利水が含まれることもある。
日本語における治水という用語は、英語の「flood control」と比較して広い意味を持つ。英語のflood controlが主に洪水調節を意味するのに対し、日本語の治水は洪水調節のほか、土砂災害を防ぐ砂防や山地の森林を保安する治山をも包含する。いかなる治水対策を講じたとしても、すべての水災害を完全に防ぐことは不可能である。そのため、どの水準の水災害までを防御するか、あるいはどの水準の水災害までを許容するかが、治水対策を行う上での重要な立脚点となる。
世界における歴史的変遷
治水の歴史は文明の始まりと深い関わりを持っている。メソポタミア、エジプト、インダス川流域、中国などの大河川の氾濫原では、古くから氾濫農耕が行われてきた。安定した農耕体制を確立するために治水や灌漑が導入され、そのための労働力の集約を通じて初期国家が形成されたと考えられている。
近代に入ると、高度な土木技術を背景とした近代的な治水技術によって水害による被害は大きく軽減された。しかし、20世紀末期頃からは、それまでの人工的な治水技術が自然環境に大きな負荷を与えていたことへの反省がなされ、ビオトープの造成など自然回帰的な治水を指向する動きがヨーロッパを中心に強まっている。
参考文献
北原糸子 編、松浦律子 編、木村玲欧 編『日本歴史災害事典』吉川弘文社、2012年。