気象学
百葉箱:気象観測における歴史と役割

百葉箱の歴史、構造、および気象観測における役割を解説。スティーブンソン・スクリーンの発明から現代の観測手法への移行までを網羅。
📌 主なポイント
- ✓百葉箱は、気象観測機器を直射日光や雨から保護し、通風を確保するための装置である。
- ✓1863年にトーマス・スティーブンソンが発明した「スティーブンソン・スクリーン」が原型である。
- ✓日本の気象庁では、1993年以降、百葉箱に代わり強制通風筒を用いた観測を行っている。
百葉箱(ひゃくようばこ)は、気象観測において温度計や湿度計などの観測機器を、直射日光や雨、雪から保護しつつ、通風を確保するために設置される箱状の装置です。気象観測機器が設置される場所は「露場(ろじょう)」と呼ばれます。

歴史的背景とスティーブンソン・スクリーン
19世紀以前、気温の測定方法は観測者によって異なり、標準化されていませんでした。特に昼間の太陽放射による影響をいかに防ぐかが大きな課題でした。1863年、スコットランドの灯台設計者トーマス・スティーブンソンが「スティーブンソン・スクリーン(Stevenson Screen)」を発明しました。これは二重の鎧戸構造を持つ木箱で、太陽光を遮蔽しながら風通しを確保する画期的な装置でした。1873年、イギリス気象学会により気温観測の標準として推奨され、世界的に普及しました。
日本においては、1874年にイギリスから観測機器が導入された際、アレクサンダー・バッカンの著書で紹介されていた「Louvre Boarded Box」が「百葉箱」と訳され、1886年の気象観測法で正式な名称として採用されました。

構造と仕様
百葉箱は、外気温を正確に測定するために以下の工夫がなされています。
- 材質と塗装:熱伝導を抑える木材を使用し、放射熱を反射するために外側は白色に塗られています。
- 通風構造:側面は二重の鎧戸、天面と底面はすのこ状になっており、自然通風を促します。
- 設置環境:直射日光を避けるため、北半球では扉を北向きに設置し、芝生などの自然地表面に置くことが推奨されます。
現代における運用と変遷
百葉箱は自然通風を利用するため、昼間は実際の気温よりやや高めに、夜間は低めに観測されるという熱慣性の問題が指摘されてきました。そのため、気象庁では1993年以降、気象官署での百葉箱による観測を廃止し、より正確な強制通風筒を用いた観測へ移行しています。
一方で、教育現場では理科教育の教材として現在も活用されています。また、かつてはOsaka Metroの駅ホームにも設置され、構内の温度環境把握に貢献していましたが、センサー技術の向上によりその役割を終え、順次撤去が進められました。

よくある質問
百葉箱の扉はなぜ北向きに設置するのですか?
扉を開けて観測する際に、直射日光が温度計に直接当たるのを防ぐためです。
なぜ気象庁は百葉箱の使用を廃止したのですか?
自然通風による観測では、放射の影響により昼間に気温が高く測定されるなどの誤差が生じるため、より正確な強制通風筒へ移行しました。
百葉箱の読み方は「ひゃくようばこ」と「ひゃくようそう」のどちらが正しいですか?
「ひゃくようばこ」の読みが一般的ですが、本来は「百葉窓」の変化であるため「ひゃくようそう」と読むのが正しいとされることもあります。
関連記事
気象庁気温気象観測温度計
参考文献
- 気象庁「気象観測の手引き」
- 山口隆子「日本における百葉箱の歴史と現状について」『天気』第53巻第4号、2006年
- J. Aitken, "Thermometer screens", Proceedings of the Royal Society of Edinburgh, 1921