結晶学
氷Ih相:地球上で最も一般的な氷の結晶構造

地球上の自然界で広く見られる氷の結晶構造である「氷Ih相」について、その物理的特性、結晶構造、および水素の乱雑さによる残余エントロピーを解説します。
📌 主なポイント
- ✓氷Ihは地球の生物圏で最も一般的な氷の結晶構造である。
- ✓密度が液体の水より低いため、水に浮くという特異な性質を持つ。
- ✓結晶構造内に水素原子の配置の乱雑さが存在し、残余エントロピーを持つ。
氷Ih相(こおりいちエイチそう、英語: Ice Ih)は、地球の生物圏において自然に存在する氷の大部分を占める六方晶系の結晶構造を持つ氷です。高層大気中にわずかに存在する氷Ic相を除き、私たちが日常的に目にする氷のほとんどはこの形態をとっています。

物理的特性
氷Ihの密度は0.917 g/cm³であり、液体の水よりも低いという特異な性質を持ちます。これは、結晶格子内において水素結合が水分子間の距離を押し広げるためです。この密度差により、氷は水に浮くことが可能となり、湖などの水域では表面のみが凍結することで、底部の水温が4 °C付近に保たれ、水生生物の生存環境が維持されます。
氷Ihは、約210メガパスカルまでの圧力下で安定して存在し、それ以上の圧力では氷IIや氷IIIといった他の相へ転移します。また、約−211 °C以下では負の熱膨張を示すなど、温度変化に対して複雑な挙動を見せます。

結晶構造
氷Ihの結晶構造は、1935年にライナス・ポーリングによって提唱されました。酸素原子が四面体配位をとり、水素結合によって六角形のリングを形成するモザイク状の構造をしています。この構造はABABパターンで積み重なっており、酸素原子間の距離は約275 pmです。この四面体的な配置が、氷の密度を低く保つ要因となっています。

水素の乱雑さと残余エントロピー
氷Ihの結晶格子内では、水素原子の位置に「乱雑さ」が存在します。絶対零度に近い温度であっても、各酸素原子は2つの隣接する水素原子を持つという条件を満たしながら、複数の配置が可能です。この構造的な無秩序により、氷Ihは「残余エントロピー」を持ちます。この値は実験的に約3.5 J mol⁻¹ K⁻¹と測定されており、ボルツマンの公式を用いた理論計算とも非常によく一致します。

よくある質問
なぜ氷は水に浮くのですか?
氷Ihの結晶構造において水素結合が水分子間の距離を広げ、液体の水よりも密度が低くなるためです。
氷Ihの「h」は何を意味しますか?
六方晶系(hexagonal)を意味しています。
氷Ihはどのような条件下で安定しますか?
常圧から約210メガパスカルまでの圧力下で安定して存在します。
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参考文献
- Rottger, K. et al. (1994). "Lattice Constants and Thermal Expansion of H2O and D2O Ice Ih Between 10 and 265 K". Acta Crystallogr. B50(6): 644–648.
- Pauling, Linus (1935). "The Structure and Entropy of Ice and of Other Crystals with Some Randomness of Atomic Arrangement". Journal of the American Chemical Society 57(12): 2680–2684.
- Bridgman, P. W. (1912). "Water, in the Liquid and Five Solid Forms, under Pressure". Proceedings of the American Academy of Arts and Sciences 47(13): 441–558.