無機化学
鉄の水酸化物:水酸化鉄(II)および酸化水酸化鉄(III)の化学的性質

鉄の水酸化物である水酸化鉄(II)と、慣用的に水酸化鉄(III)と呼ばれる酸化水酸化鉄(III)の化学的性質、構造、反応性について解説します。
📌 主なポイント
- ✓水酸化鉄(II)は酸素のない環境で生成し、空気酸化により赤褐色の水酸化鉄(III)系物質へ変化する。
- ✓「水酸化鉄(III)」の組成は実際には酸化水酸化鉄(III)(FeO(OH))やその水和物である。
- ✓鉄の錆の生成過程において、2価の鉄イオンから3価の鉄への酸化が重要な役割を果たす。
鉄の水酸化物は、鉄の酸化数に応じて主に水酸化鉄(II)と、慣用的に水酸化鉄(III)と呼ばれる化合物群に分類されます。これらは鉄の腐食プロセスや鉱物学において重要な役割を果たします。
水酸化鉄(II)
水酸化鉄(II)(化学式:Fe(OH)₂)は、鉄(II)イオンを含む溶液に酸素を遮断した状態で塩基(水酸化ナトリウムなど)を加えることで得られる沈殿物です。無色から淡緑色の六方晶系結晶であり、水酸化カドミウム型の構造を持ちます。

水酸化鉄(II)は希酸に容易に溶解して鉄(II)イオンを生成します。また、濃厚なアルカリ水溶液中では両性を示し、錯イオンを形成して溶解する性質があります。


酸素が存在する環境下では、水酸化鉄(II)は容易に酸化され、最終的に水酸化鉄(III)(酸化水酸化鉄(III))へと変化します。この過程で色は淡緑色から灰緑色、黒褐色、そして赤褐色へと変化します。これは鉄の錆(赤錆)が生成する過程と密接に関連しています。


酸化水酸化鉄(III)
一般に「水酸化鉄(III)」と呼ばれる物質は、化学式Fe(OH)₃で表されることがありますが、実際には鉄と水酸化物イオンが1:3の比率で存在する化合物は確認されていません。実態は酸化水酸化鉄(III)(FeO(OH))や、その水和物(Fe₂O₃・nH₂O)の混合物であると考えられています。
天然には針鉄鉱(α-FeO(OH))、鱗鉄鉱(γ-FeO(OH))などが存在し、これらは多形関係にあります。これらは加熱により脱水し、対応する酸化鉄(III)へと変化します。

よくある質問
水酸化鉄(II)はなぜ空気中で色が変わるのですか?
空気中の酸素によって酸化され、水酸化鉄(III)(酸化水酸化鉄(III))へと変化するためです。この酸化に伴い、淡緑色から赤褐色へと変色します。
水酸化鉄(III)の正しい化学式は何ですか?
Fe(OH)₃と表記されることもありますが、実際には酸化水酸化鉄(III)(FeO(OH))またはその水和物(Fe₂O₃・nH₂O)の混合物であると考えられています。
水酸化鉄(II)は酸に溶けますか?
はい、水酸化鉄(II)は希酸に容易に溶解し、鉄(II)イオンを生じます。
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参考文献
- D.D. Wagman et al., The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982)
- FA コットン, G. ウィルキンソン著, 中原 勝儼訳『コットン・ウィルキンソン無機化学』培風館、1987年
- 『化学大辞典』共立出版、1993年
- 渡辺正ほか『新版 化学II』大日本図書、2007年