生活用品・暖房器具

携帯用暖房器具「懐炉」の歴史と発展

携帯用暖房器具「懐炉」の歴史と発展
化学反応や熱を利用して身体を温める携帯用暖房器具「懐炉」の歴史。温石や灰式カイロから、白金触媒式カイロ、使い捨てカイロまでの変遷を解説。

📌 主なポイント

  • 懐炉は、化学発熱体や蓄熱材を用いて身体を温める携帯用の暖房器具である。
  • 明治時代から昭和中期にかけて普及した灰式カイロは、木炭粉末を固めた懐炉灰を燃焼させて熱を得ていた。
  • 白金触媒式カイロは1923年に発明された「ハクキンカイロ」に代表され、ベンジンの酸化発熱を利用する。
  • 使い捨てカイロは、1978年にロッテ電子工業が発売した「ホカロン」などを契機として日本国内で広く普及した。

懐炉(かいろ)とは、化学発熱体や蓄熱材などを内蔵し、携帯して身体を温めるための暖房器具の総称である。片仮名で「カイロ」とも表記される。古代の蓄熱式から、木炭の燃焼を利用した灰式、白金の酸化発熱を利用した触媒式、そして現代の主流である鉄の酸化反応を利用した使い捨てカイロへと進化を遂げてきた。

歴史的な初期の暖房具:温石

古い時代には、懐中に入れて暖を取る手段として温石(おんじゃく)が利用されていた。平安時代の文学作品である『落窪物語』にもその記述が見られる。滑石などの石を火鉢などで加熱し、適度に冷まして布に包んで使用したほか、塩や塩と糠を混ぜたものを炒って布に包んだ「塩温石」も同様に用いられ、江戸時代頃まで一般的に普及していた。当時から布団の足下に置くなどして睡眠時の防寒として活用され、中世ヨーロッパでも類似の用具が使われていた。

灰式カイロの普及と衰退

江戸時代の元禄期初期には、木炭粉末に保温力の強いナスの茎などの灰を混ぜた懐炉灰を、通気孔のある金属容器に入れて燃焼させる灰式カイロが存在していた。木炭粉末に混ぜる灰には麻殻や桐灰なども用いられた。

明治時代に入ると、金属製の筐体にロックウールを保持媒体として内蔵する灰式カイロの製造メーカーが国内に多数登場した。1904年(明治37年)には、麻の一大生産地である栃木県で麻殻を再利用した懐炉灰の大量生産が始まり、普及を大きく後押しした。なお、日本の灰式カイロは1888年(明治21年)に米国ウィスコンシン州の地方紙で紹介された記録が残っている。

灰式カイロは大正時代以降に白金触媒式が登場したことで市場シェアを縮小させ、昭和時代中期に使い捨てカイロが台頭してからはごく少数のメーカーのみが製造を継続する状況となった。持続時間や利用の簡便さでは他方式に劣るものの、燃焼時に水分を全く発生させない構造上の特徴から、カメラや天体望遠鏡のレンズを温めて結露を除去する用途などで根強い需要を維持した。しかし、2010年代初頭までに国内最後の製造メーカーが生産を終了し、日本国内での製造は途絶えている。

白金触媒式カイロ

白金触媒式カイロは、プラチナ(白金)の触媒作用による燃料の酸化発熱を利用するカイロであり、主にベンジンを燃料として用いる。

大正末期に的場仁市がイギリスのプラチナ触媒式ライターを参考に発明し、1923年に「ハクキンカイロ」の商品名で発売した。第二次世界大戦前後は郵便局や軍隊などが主な利用者であったが、戦後は一般にも広く普及した。

炭化水素であるベンジンを白金の触媒作用により、摂氏300度から400度の比較的低温域で緩やかに二酸化炭素と水へと酸化分解させ、その際に発生する反応熱を取り出す仕組みとなっている。触媒となるプラチナはマット状のガラス繊維に粒子として付着させており、効率的に反応が進行する。また、1953年には松下電器産業(現:パナソニック)が円盤状の本体を持ち、乾電池を利用した専用点火具で点火する「黄金カイロ」を発売し、ハクキンカイロと市場シェアを争ったが、1993年4月に販売を終了した。現在ではハクキンカイロのほか、ジッポーブランドのハンディウォーマーなどが販売されている。

使い捨てカイロの登場と市場拡大

1975年、アメリカ陸軍が使用していたフットウォーマーを元に、旭化成工業(現・旭化成)が「アッタカサン」を全国で販売した。これを原型として、日本純水素(現:日本パイオニクス)が開発を行い、1978年にロッテ電子工業(後のロッテ健康産業、現在はロッテ本体に吸収合併)が「ホカロン」の商品名で全国発売し、大ヒットを記録した。

不織布に鉄粉などを詰めて密封し、開封することで鉄の酸化反応に伴う発熱を得るこの形式は、取り扱いが簡単で臭いもしないことから急速に普及した。1979年には白元が1枚100円の「ホッカイロ」を発売して北日本を中心に大ヒットし、使い捨てカイロの代名詞的存在となった。その後も各社から様々な製品が投入され、1980年には日本の国内販売額が100億円を超える規模に急拡大した。

1988年にはマイコールが衣類の裏面に貼ることができる「貼るカイロ」を発売して成功を収め、その後に続く主要な市場トレンドとなった。近年では、屋外作業やレジャー向けに最高温度を高めた高温タイプのカイロなども展開されている。

よくある質問

懐炉とはどのような器具ですか?
懐炉は、化学発熱体や蓄熱材などを内蔵し、ポケットなどに入れて身体を温めるための携帯用暖房器具の総称です。
白金触媒式カイロはどのような仕組みで温かくなりますか?
ベンジンなどの燃料を、プラチナ(白金)の触媒作用によって緩やかに酸化分解させ、その過程で発生する反応熱を利用して温かさを保ちます。
使い捨てカイロはいつ頃から普及しましたか?
1978年に「ホカロン」が発売されたことを契機として急速に普及し、1980年の冬にかけて日本国内の市場規模が急拡大しました。

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参考文献

  • ハクキンカイロ資料館
  • 特許庁 意匠分類定義カード(D4)
  • 朝日新聞復刻版