言語の共通語と標準語に関する概念と歴史的展開
📌 主なポイント
- ✓共通語は地域や集団の違いを超えて意思疎通に用いられる言語であり、必ずしも単一の規範に限定されない。
- ✓標準語は、特定の地域の方言を基準にして調整・規範化され、行政や教育を通じて普及した言語である。
- ✓異なる言語話者間で使用される国際的な共通語は、リンガフランカとも呼ばれる。
- ✓日本では明治期以降の標準語普及運動を経て、戦後の放送やテレビの普及、学術調査などを契機に「共通語」という概念が広く浸透した。
共通語(きょうつうご)とは、地域や集団の違いを超えて相互の意思疎通のために用いられる言語を指す。通用語とも呼ばれる。一方で、国家的な規範や教育的配慮に基づいて形成される「標準語」とは区別されることが多い。
定義と標準語との違い
「共通語」と「標準語」は混同されやすい概念である。日本語ではどちらも英語の「Common Language」や「Standard Language」に関連付けて論じられることがあるが、学術的な定義や背景には違いが存在する。
共通語は、多民族や多国間のコミュニケーションを円滑にする目的で、多様な言語や方言の中から主なものとして利用される。例えば、イギリス、アメリカ、インドなどは英語を共通語として用いているが、それぞれの国や地域で話される英語のアクセント、イントネーション、語彙、文法には差異が見られる。
これに対し標準語は、同じ言語に属する諸方言の中から特定のものを基準として選び、行政的な調整や規範化を加えて全国へ普及させた言語を指す。ほかの諸方言と比較して、文法や書き言葉の面で規範的かつ中立的な傾向を持つ。
国際的な共通語(リンガフランカ)
経済的・政治的に強い影響力を持つ地域で話される言語は、異なる言語や民族を越えた共通の言語として使用されることがある。このような言語は国際共通語またはリンガフランカと呼ばれる。
歴史的には、東アジアの漢文、インドのサンスクリット、地中海世界のギリシャ語やラテン語、西洋におけるフランス語、東南アジアのマレー語、アラブ世界のアラビア語、東アフリカのスワヒリ語などがその役割を担ってきた。現代においては、国際的な場や学術・経済の領域において英語が国際共通語として広く用いられている。
日本における共通語の成立と歴史
日本では、共通語や標準語が公式かつ法的に一律で定められているわけではない。
明治初期の日本では、地域間の言葉の隔たりが大きく、日常の会話においても意思疎通が難しい状況があった。明治時代に入り、中央集権国家の形成に伴い国語調査委員会などで方言の調査や標準語の選定が進められた。1930年代半ばには標準語が次第に定着していったが、列島内の言語差が急速になくなったわけではなく、それが広く浸透したのはテレビが普及した高度経済成長期以降とされる。
戦後、国立国語研究所が福島県白河市などで実施した学術調査において、東北方言と標準語の中間的な特徴を持つ日本語を話す話者層が確認された。これを受け、同研究所は全国共通に理解し合える言葉としてこれを「全国共通語」、あるいは「共通語」と呼ぶようになった。この「共通語」という用語の背景には、中央集権的な標準語の普及に伴う方言への抑圧に対する反発や、「統制」というニュアンスを避ける意図があったとされる。
共通語と標準語の分類と解釈
近年の言語学研究や辞書等の記述においては、共通語が「現実に全国で話されている話し言葉」の側面を強く持つのに対し、標準語は「規範としての書き言葉に重きを置いた概念」として整理されることがある。
また、標準語という言葉が指す対象については、実際に広く使われている「デファクト標準語」、国家などの権威を背景に公的に制定される「オーソライズド標準語」、そしてそれを意識して話される「オーソリティー・コンシャス標準語」のように、いくつかの段階に分けて捉える見方も示されている。