魚類学

レプトケファルス:カライワシ上目の平坦な幼生の特徴と生態

レプトケファルス:カライワシ上目の平坦な幼生の特徴と生態
カライワシ上目の魚類に見られる透明で平細な幼生「レプトケファルス」について、形態的特徴、食性、巨大幼生の謎、人工飼育の研究成果を解説します。

📌 主なポイント

  • レプトケファルスは、カライワシ上目に属する魚類に見られる平たく細長く透明な幼生である。
  • 主な食性はマリンスノーやオタマボヤの包巣、クラゲ類などのゲル状動物プランクトンであることが研究で判明している。
  • 過去に「海の怪物シーサーペントの正体」と噂された巨大レプトケファルスの多くは、後にソコギス亜目やオキアナゴ属などの親種であることがDNA分析で判明した。

レプトケファルス(ラテン語: Leptocephalus)は、カライワシ上目(ウナギ目、フウセンウナギ目、カライワシ目、ソトイワシ目)に属する魚類特有の、平たく細長く透明な体を持った幼生である。

レプトケファルス
レプトケファルス

名称の由来と形態的特徴

「Leptocephalus」という語源はラテン語の lepto(小さい)と cephalus(頭)に由来し、「小さい頭」を意味している。その大きさは数センチメートル前後から、種によっては1メートルを超えるものまで多様である。ウナギやアナゴ、ハモなどのウナギ目魚類では、成長後にレプトケファルス期から稚魚(シラスウナギなど)へと変態する際、ゼラチン質の体が脱水収縮して体組織の濃縮が起こるため、変態の前後で体長が小さくなる現象が知られている。

野外で採集されたヨーロッパウナギのレプトケファルス幼生を用いた組織学的解析により、筋質の食道と、刷子縁を持つ吸収上皮を備えた消化管を所有していることが明らかにされている。

食性と生態

長年にわたりレプトケファルスの食性は謎に包まれていた。一般的な魚類とは異なり、口の奥ではなく前方に向いた歯を持っており、多様な動物プランクトンを与えてもほとんど捕食しなかったためである。しかしその後の研究により、海洋における食性の全貌が解明されつつある。

サルサッソ海で採集されたヨーロッパウナギのレプトケファルスの胃内容物から、オタマボヤ類が植物プランクトンを摂食するために分泌するゼラチン質の使い捨て式フィルター(包巣)の残骸が発見された。これを契機として、オタマボヤ類の廃棄された包巣などに由来するマリンスノーを摂食していることが判明した。さらに、これを模した人工飼料による飼育実験も行われており、ハモではエビのすり身、ウナギではサメの卵黄を原料とした人工飼料での餌付けに成功している。ニホンウナギのレプトケファルス幼生は、イタチザメの卵黄を主体としたスラリー状飼料を用いることで100日以上の飼育が達成され、最終的に22.8ミリメートルにまで成長した事例が報告されている。

近年のDNAバーコーディング解析や研究船による調査では、主にクラゲ類などのゲル状動物プランクトンを摂食していることも示されている。また、夜間は水温躍層付近(主に水深100メートル未満)に留まり、日中は水深300メートル付近まで垂直移動を行って海流を利用した長距離輸送を行っている可能性が示唆されている。

巨大なレプトケファルスの歴史と正体

1928年から1930年にかけてデンマークの調査船ダナ号による海洋調査が実施され、1930年1月31日にはセント・ヘレナ島付近で体長1.8メートルに達する非常に巨大なレプトケファルスが捕獲された。当時、ウナギ類は成長後に数十倍の大きさになると考えられていたため、この巨大幼生が成体になれば数十メートルに達するのではないかと推測され、「伝説のシーサーペント(大海蛇)の正体ではないか」と大きく報じられた。

しかし、1960年代半ばに偶然変態途中の巨大レプトケファルスが採取されたことから事態が大きく進展した。その身体的特徴からソコギス亜目魚類の仔魚である可能性が浮上し、調査の結果以下の事実が判明した。

  • ソコギス亜目魚類もレプトケファルス期を経て成長する。
  • ウナギ目とソコギス亜目には近い類縁関係が認められる。
  • ウナギ類は変態後に大きく成長するが、ソコギス類はレプトケファルス期に成体サイズまでの成長をほぼ遂げ、変態後はほとんど大きくならない。
  • 過去に発見された巨大レプトケファルスの大半はソコギス亜目魚類の幼体であった。

一方で、明らかにウナギ目の幼生でありながら長年親種が不明であった巨大レプトケファルスも存在した。これらには小型種に Thalassenchelys foliaceus、大型種に Thalassenchelys coheni という学名が与えられていた。2010年以降、DNA分析技術の進展によりこの謎も解明された。日本の研究者らによる調査で、横須賀で水揚げされたオキアナゴ(Congriscus megastomus)のDNAが大型種と一致し、オーストラリアから入手した Congriscus maldivensis のDNAが小型種と一致することが確認された。

食文化

マアナゴのレプトケファルスは、日本国内の一部の地域(高知県など)において「のれそれ」と呼ばれ、食用に供されている。生きたまま土佐酢や三杯酢などにくぐらせて踊り食いとされることが多い。また、兵庫県の淡路島では「洟垂れ(はなたれ)」、岡山県では「ベラタ」という地方名でも呼ばれている。

よくある質問

レプトケファルスとはどのような生物ですか?
ウナギやアナゴ、ハモなどのカライワシ上目に属する魚類の幼生です。平たく細長く、体が透明であることが特徴です。
レプトケファルスは何を食べていますか?
長年謎とされていましたが、オタマボヤ類の廃棄された包巣などのマリンスノーや、クラゲ類をはじめとするゲル状動物プランクトンを摂食していることがDNA分析などで判明しています。
「のれそれ」とは何ですか?
マアナゴのレプトケファルスのことであり、高知県などを中心に生きたまま酢醤油などで食べる「踊り食い」として食用にされています。

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参考文献

  • Nelson, Joseph S.; Grande, Terry C.; Wilson, Mark V. H. (2016). Fishes of the World (5th ed.). John Wiley & Sons. doi:10.1002/9781119174844
  • 北海道大学. “レプトセファルス”. LASBOS Moodle ウナギの生活史 (2020年7月16日). 2023年1月8日閲覧。
  • Riemann, Lasse; Alfredsson, Håkan (2010). “Qualitative assessment of the diet of European eel larvae in the Sargasso Sea resolved by DNA barcoding”. Biol Lett 6 (6): 819–822. doi:10.1098/rsbl.2010.0411.
  • Miller, Michael J.; Tsukamoto, Katsumi (2020). “The behavioral ecology and distribution of leptocephali: marine fish larvae with unforeseen abilities”. Marine Biology 167. doi:10.1007/s00227-020-03778-8.
  • Chow, S.; Yanagimoto, T.; Kurogi, H.; Appleyard, S. A.; Pogonoski, J. J. (2016). “A giant anguilliform leptocephalus Thalassenchelys foliaceus Castle & Raju 1975 is a junior synonym of Congriscus maldivensis (Norman, 1939)”. Journal of Fish Biology 89: 2203-2211.
  • Kurogi, H.; Chow, S.; Yanagimoto, T.; Konishi, K.; Nakamichi, R.; Sakai, K.; Saruwatari, T.; Takahashi, M.; Ueno, Y.; Mochioka, N. (2016). “Adult form of a giant anguilliform leptocephalus Thalassenchelys coheni Castle and Raju 1975 is Congriscus megastomus (Günther 1877)”. Ichthyological Research 63: 239-246.