天文学
月の外気圏:その組成と物理的特性

月を取り巻く極めて希薄なガス層である「外気圏」について、その発生源、組成、および物理的特性を解説します。
📌 主なポイント
- ✓月の外気圏は極めて希薄で、気圧は約3 × 10⁻¹⁵気圧である。
- ✓主な発生源は放射性崩壊に伴うガス放出と、流星塵や太陽風によるスパッタリングである。
- ✓ナトリウム、カリウム、アルゴン、ヘリウムなどの元素が観測されている。
月は伝統的に「大気を持たない天体」と見なされてきましたが、厳密には地表付近に極めて希薄なガス層が存在しています。科学的にはこれを「大気」ではなく、衝突や脱出が頻繁に起こる外気圏(exosphere)と呼ぶのが適切です。このガス層は地球の大気とは比較にならないほど希薄であり、実用上の真空に近い状態を保っています。
物理的特性
月面の外気圏の密度は非常に低く、地球の海面気圧と比較すると100兆分の1以下という極めて低い値です。推定される気圧はおおよそ3 × 10⁻¹⁵気圧程度であり、全質量を合計しても約25トンに過ぎません。このため、大気による熱の保持や循環といった現象は起こらず、放射線や太陽風の影響を直接的に受ける環境となっています。

発生源と消失過程
月の外気圏を構成するガスは、主に以下のプロセスによって供給および消失しています。
- ガス放出:地殻やマントル内部の放射性崩壊に伴い、ラドンやヘリウムなどのガスが地表へ放出されます。
- スパッタリング:流星塵や太陽風が月面に衝突することで、表面の粒子が叩き出されます。
放出された粒子は、月の重力に捉えられて再びレゴリスに沈着するか、あるいは月面の脱出速度(約2.38km/s)を超えて宇宙空間へ流出します。また、イオン化したガスは太陽風の磁場や放射圧の影響を受けて宇宙へと運ばれます。
組成
観測により、ナトリウムやカリウムの存在が確認されているほか、アルゴン40、ヘリウム4、酸素、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素などの微量成分が検出されています。日中の月面付近における原子密度は、1立方センチメートルあたり約80,000個程度と推定されています。
よくある質問
月には大気がありますか?
厳密には「外気圏」と呼ばれる極めて希薄なガス層が存在しますが、地球の大気とは異なり、実用上は真空と見なされます。
なぜ月の大気はこれほど薄いのですか?
月は重力が小さく、また磁場による保護がないため、放出されたガスが容易に宇宙空間へ逃げ出してしまうためです。
月面で夕焼けは見られますか?
地球のような厚い大気による散乱現象は起きませんが、月面の塵や極めて薄い外気圏が光に影響を与える可能性が指摘されています。
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参考文献
- Williams, D. R. (2016). Moon Fact Sheet. NASA.
- Lucey, P., et al. (2006). Understanding the lunar surface and space-Moon interactions. Reviews in Mineralogy and Geochemistry, 60(1), 83–219.
- Lawson, S., et al. (2005). Recent outgassing from the lunar surface: the Lunar Prospector alpha particle spectrometer. Journal of Geophysical Research, 110(E9).
- Stern, S. A. (1999). The Lunar atmosphere: History, status, current problems, and context. Rev. Geophys., 37(4), 453–491.