環境科学

緑のダムの概念と森林の水源涵養機能

森林が持つ洪水緩和や渇水緩和などの水源涵養機能をダムに例えた「緑のダム」について、その概念の成り立ちや科学的な評価、議論の論点を解説します。

📌 主なポイント

  • 「緑のダム」は学術用語ではなく、森林の水源涵養機能をダムに例えた比喩的表現である。
  • 森林の保水機能には、洪水緩和、渇水緩和、水質保全の3つの側面があるとされる。
  • 森林の浸透能や治水能力の評価については、測定手法や降雨条件に基づき専門的な議論が続いている。
  • 現代の河川管理では、森林と人工ダムを統合的に扱う流域管理の重要性が指摘されている。

緑のダムとは、森林が持つ多面的な機能のうち、特に洪水緩和、渇水緩和、水質保全といった水源涵養機能を、人工的なダムの貯水機能に例えた表現である。ただし、これは学術的に厳密に定義された用語ではなく、使用される文脈や時代によってその解釈は一定ではない。

概念の成り立ち

緑のダム」という言葉は、1970年代の日本において、首都圏での水不足問題などを背景に、森林の持つ保水力の重要性を広く伝えるために提唱された。コンクリート製のダムと対比させることで、森林が雨水を土壌に蓄え、ゆっくりと河川へ流出させるという自然のプロセスを強調する意図があった。

初期の議論では、ブナなどの天然林が持つ高い保水機能に注目し、人工林への転換を「緑のダムの破壊」と捉える主張も見られた。その後、概念は広がり、あらゆる森林が持つ雨水浸透・流出調整機能全般を指す言葉として定着した。

森林の保水メカニズムと評価

森林の土壌は多孔質であり、スポンジのように雨水を一時的に蓄える機能を持つ。落ち葉や枯れ枝が地表を覆うことで雨水の流出を抑制し、土壌への浸透を促す。浸透した水は地下水として蓄えられ、時間をかけて渓流へと滲出するため、急激な河川の増水を防ぐ治水能力があると評価されている。

一方で、この機能の評価については専門家の間でも議論がある。特に「浸透能」の測定方法については、冠水型浸透計を用いた実験値が実際の降雨メカニズムを過大評価しているのではないかという指摘がある。実際の豪雨時には土壌が飽和し、森林の保水能力を超える流出が発生することも珍しくないため、森林の治水効果を過信することへの慎重な意見も存在する。

論点と課題

「緑のダム」の機能については、以下の点が主な論点となっている。

  • 渇水緩和への寄与:森林は自らの成長のために蒸発散を行うため、渇水時に必ずしも河川流量を増加させるわけではないという指摘がある。
  • 降雨強度への対応:山岳地帯の急峻な地形や、飽和した土壌の状態では、森林の保水能力には限界がある。
  • 統合的な管理:現代の河川管理においては、森林の機能と人工的なダムの役割を切り離すのではなく、統合的水資源管理(IWRM)の枠組みの中で捉えるべきだという考え方が主流となっている。

よくある質問

緑のダムとは何ですか?
森林が雨水を土壌に蓄え、ゆっくりと河川へ流出させることで、洪水や渇水を緩和する機能を人工的なダムに例えた表現です。
森林は常に渇水を防ぐことができますか?
必ずしもそうではありません。森林は成長のために水分を蒸発散させるため、渇水時に河川への流出量を減らす場合もあり、流域の地形や気象条件によって評価が異なります。
なぜ緑のダムの評価には議論があるのですか?
森林の浸透能を測定する手法(冠水型浸透計など)が実際の降雨メカニズムを正確に反映しているかという点や、豪雨時の飽和状態における治水能力の限界について、専門家の間で異なる見解があるためです。

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参考文献

  • 蔵治光一郎「森林の『緑のダム』機能の実態と将来展望」東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
  • 北海道森林管理局「Q19.『森林は緑のダム』と言われるのはなぜですか?」
  • 蔵治光一郎+保屋野初子編『緑のダム――森林・河川・水循環・防災』築地書館、2004年
  • 虫明功臣・太田猛彦『ダムと緑のダム 狂暴化する水災害に挑む流域マネジメント』日経BP、2019年