言語における黙字の特徴と歴史的変遷
📌 主なポイント
- ✓黙字とは、綴りの中で発音されない表音文字や字素のことを指す。
- ✓英語における黙字は、古英語の音の名残りや、後世に語源的意識から追加された文字などに分類される。
- ✓フランス語では語末の e や一部の子音字が黙字となるが、リエゾンによって発音される場合がある。
黙字(もくじ)とは、単語や文を表す綴りの中で、発音されない表音文字や、読み上げられることのない字素のことを指す。
概要
多くの言語の表記系に存在し、とくに表音文字による表記系において、現在では発音されなくなった古い音の痕跡が綴り上に遺っているものが多い。ほかに、借用語でもとの言語の表記に倣ったものや、同音異義語を区別するためにあえて挿入されているようなものもある。
英語の語末の e や gh などのように、それ自体は発音しないが、前後の母音字などの発音方法を示唆するような役割を担っているものもある。
英語における黙字
英語は正書法の大きな改革を経験しておらず、綴り方において保守的であるため非常に多くの黙字が存在する。これらはいくつかの歴史的背景や種類に大別される。
語末の e
英語の歴史は高低アクセント言語から強勢アクセント言語への移行の歴史であり、第二音節などが次第に弱化し、最終的に無音化する過程を経ている。語末の e は当初 [ə] を表す音標であったが、現在では多くの場合で黙字となっている。
また、こうしたケースでは直前の音節が長母音として発音される傾向があったことから、語末の e は「直前の母音を長母音(現在の二重母音)として発音する目印」としても認識されるようになり、やがて元来母音のなかった場所にもその用途のために添えられるようになった。
古英語からの語彙
古英語から受け継がれてきた語彙で、過去には発音されていた音の名残りが綴りに遺るものがある。例として、high, know, gnaw, write, often, castle, climb, walk などの各子音字が挙げられる。初期近代英語に移る過程で次第に音が摩滅した。
ギリシア語からの借入語
psychology, Ptolemy, pneumonia, phthisis, mnemonic, gnostic, paradigm などの学術語に多く見られる。古典ギリシア語の語根を直接取り込んだもので、語頭などの二重子音は現代英語の音体系では最初の音がスキップされて発音される。
後づけ的に挿入された黙字
語源を意識して綴りを改変することが行われてきた。doubt, debt, subtle, receipt, isle などは、古いフランス語を借用した後に、ラテン語の原形に近づけようという意図で b, p, s などの黙字が追加されたものである。また、island や foreign のように類推や民間語源によって文字が挿入された例もある。
フランス語における黙字
フランス語では英語と同様に、語末の e は原則として黙字である(アクセント記号が付いている場合などを除く)。また、語末の b, d, s, t なども一部の例外を除き黙字であるが、後続する語の頭が母音である場合にはリエゾンによって発音されることがある。
ロマンス諸語全般の特徴として /h/ 音を持たず、h はつねに黙字として扱われる。
漢文・漢字における類似表現
漢文の訓読の際に読まない字(「而」など)は、日本語として省略する意味合いにおいて「黙字」や「置き字」と呼ばれることがあるが、本来の中国語では発音される字である。また、日本語の熟字訓や人名・地名表記には、実際には読まない文字が含まれている場合がある。
よくある質問
黙字とは何ですか?
なぜ英語には黙字が多いのですか?
フランス語の黙字にはどのようなものがありますか?
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参考文献
- ドイツ語なども類似の変化を経験している。
- 大母音推移については、大母音推移を参照。
- often の t は地域・個人により発音する場合としない場合がある。
- Online Etymology Dictionary 「island」 (2020年1月10日閲覧)
- Online Etymology Dictionary 「foreign」 (2020年1月10日閲覧)
- Online Etymology Dictionary 「muscle」 (2020年1月10日閲覧)