氷食症の臨床像と原因に関する医学的解説
📌 主なポイント
- ✓氷食症は異食症の一種であり、製氷皿1皿分以上の氷を強迫的に食べる傾向を指す。
- ✓鉄欠乏性貧血や、貧血を伴わない鉄欠乏状態との強い関連が臨床的に確認されている。
- ✓血清フェリチン値の低下やトランスフェリン飽和度の低下が診断や治療方針決定の重要な指標となる。
- ✓鉄剤の内服治療によって、多くの場合1か月程度で症状が改善する。
氷食症(ひょうしょくしょう、英: pagophagia)は、非栄養物質である氷を強迫的に、あるいは日常的に大量摂取したくなる症状、およびそれを主徴とする状態を指す。大まかには異食症の一種に分類される。
定義と背景
氷食症は、製氷皿1皿分以上の氷を日々食べるような状態を指すことが一般的であるが、医学的な診断基準において厳密な数量の定義が定まっているわけではない。冷凍技術や製氷機の普及に伴い、日常的に大量の氷を入手しやすくなった現代社会において臨床的に注目されるようになった背景を持つ。
原因と病態生理
明確な発症機序の全容はいまだ完全に解明されていないが、鉄欠乏性貧血、あるいは貧血を伴わない段階の鉄欠乏状態との強い関連が臨床報告などで確認されている。日本の臨床報告においても、氷食症を主訴として医療機関を受診した患者に重度の鉄欠乏性貧血が認められ、鉄剤の投与によって氷を食べる行動が改善した事例が示されている。
また、口腔内の温度を下げることで一時的な不快感を和らげているのではないかという仮説や、鉄の欠乏そのものが味覚や食嗜好の変化を引き起こすという説が挙げられている。そのほか、強迫性障害の文脈において他の強迫症状の一部として現れるケースも指摘されている。なお、氷の過剰摂取が鉄分の腸管吸収を妨げて鉄欠乏を招くという逆因果の説も一部で議論されたが、鉄剤治療の効果や速度に両群間で有意な差が認められないことから、現在では疑問視されている。
臨床症状
主要な症状は、氷を食べずにはいられない強い強迫観念や行動である。それに付随して、鉄欠乏や貧血に起因する全身症状が現れることが多い。主な随伴症状には以下が含まれる。
- 持久力や記憶力の低下
- 寝起きの悪さや入眠困難
- 食欲不振
- 顔色不良、動悸、息切れ
強迫性障害に関連して発症している場合は、過剰な手洗いや戸締まりの確認といった他の強迫症状を併発することもある。
検査と診断
診断においては、外見上の特徴(例えば眼瞼結膜の色調変化など)のみに頼るのではなく、血液検査による客観的な評価が必要とされる。主な検査項目には以下がある。
- 貧血に関する指標:赤血球数、血色素値(ヘモグロビン濃度)、ヘマトクリット値の測定。
- 鉄欠乏に関する指標:血清鉄、総鉄結合能(TIBC)、トランスフェリン飽和度(TSAT)、血清フェリチン値などの測定。
血色素値が正常域を下回り、MCHCが31未満である場合などは鉄欠乏性貧血が強く疑われる。ただし、氷食症の患者において貧血の合併は必須ではない。トランスフェリン飽和度が16%未満、あるいは血清フェリチン値が14 ng/ml未満である場合は鉄欠乏の可能性が高く、治療適応を判断する根拠となる。
治療法
鉄欠乏や貧血が背景にある場合、鉄剤(経口のフェロミア錠50 mgなど)の投与が行われる。通常、1日1〜2回内服することで、氷食症を含む主な臨床症状は1か月程度で改善に向かう。ただし、体内の鉄貯蔵量を十分に回復させて再発を防ぐためには、3〜4か月間にわたる継続的な内服が推奨される。月経過多などが根本的な原因であるケースでは、その後も定期的な内服調整が行われることがある。内服薬による消化器症状(吐き気、便秘、下痢など)の副作用が強く継続が難しい場合には、鉄剤の静脈注射が選択肢となることもある。
よくある質問
氷食症とはどのような病気ですか?
氷食症の主な原因は何ですか?
どのような検査が行われますか?
どのように治療されますか?
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参考文献
- 甲〆慎二「氷を食べ過ぎると貧血になる?」『日経DI』第154号, 2010年, p.57.
- 仙名智弘, 仙名あかね, 山下雅子, 神部芳則. 氷食症が診断の契機となった重度貧血の1例. 日臨内誌. 2018;31(2):183–186.