物理学・生物学
相分離(物理学・生物学)の概要とメカニズム
相分離の物理学的定義から、生物学における液-液相分離(LLPS)の重要性、スピノーダル分解や核生成といった形成過程までを解説します。
📌 主なポイント
- ✓相分離とは、均一な混合物から複数の相が生成される現象である。
- ✓相分離の形成過程には、スピノーダル分解と核生成の2種類が存在する。
- ✓生物学における液-液相分離(LLPS)は、膜を持たない細胞内構造の形成に関与している。
相分離(そうぶんり、英: Phase separation)とは、単一の均一な混合物から、性質の異なる2つ以上の相が生成される現象を指します。物理化学において基本的な概念であり、油と水のように混ざり合わない液体同士の分離などが代表例です。
物理学における相分離
物理学や化学の領域では、非平衡状態にある単一の相が、熱力学的に安定な2つの異なる相へと分かれる過程が研究対象となります。この過程は、系の状態が不安定領域にあるか準安定領域にあるかによって、大きく2つのメカニズムに分類されます。
形成過程
- スピノーダル分解:系が不安定領域にある場合に起こります。濃度のわずかなゆらぎが自発的に増幅・成長することで相分離が進行します。この初期過程はカーン=ヒリアード方程式によって記述されます。
- 核生成:系が準安定領域にある場合に起こります。偶発的に発生した大きな濃度ゆらぎが「核」となり、そこから相分離領域が成長していく過程です。
相分離が進行し、領域の体積が増大していく過程では、オストワルト熟成などの現象が観察されることもあります。
生物学における液-液相分離
生物学の分野では、液-液相分離(Liquid-liquid phase separation, LLPS)が細胞内の構造形成において重要な役割を果たしていることが明らかになっています。2009年、クリフォード・ブラングウィンらによって、線虫の胚におけるP顆粒が液滴のような性質を持つことが報告されたことを契機に、この概念は急速に注目を集めました。
細胞内では、膜を持たない細胞小器官やドメインが、タンパク質や核酸などの生体分子が相分離を起こすことで形成されます。これらは「生体分子凝縮体」とも呼ばれ、細胞内の反応場や物質の濃縮・隔離といった機能に関与しています。近年では、この相分離の異常が疾患の発症に関連している可能性も研究されています。
よくある質問
スピノーダル分解と核生成の違いは何ですか?
スピノーダル分解は不安定領域で起こる自発的なゆらぎの増幅による分離であり、核生成は準安定領域で発生した核を起点として分離が進行する過程です。
生物学における相分離の重要性は何ですか?
細胞内で膜を持たない構造(生体分子凝縮体)を形成し、特定の分子を濃縮したり、反応場を提供したりする役割を担っています。
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参考文献
- Nic M, Jirat J, Kosata B. "Phase separation". IUPAC Compendium of Chemical Terminology (the "Gold Book"). 2nd ed. Oxford: Blackwell Scientific Publications. 1997. doi:10.1351/goldbook.P04534.
- Brangwynne CP, et al. "Germline P Granules Are Liquid Droplets That Localize by Controlled Dissolution/Condensation". Science. 2009;324(5935):1729–1732. doi:10.1126/science.1172046.
- Wang B, et al. "Liquid–liquid phase separation in human health and diseases". Signal Transduction and Targeted Therapy. 2021;6(1):1–16. doi:10.1038/s41392-021-00678-1.
- 瀬戸秀紀. "ソフトマターの物理学". 2015年.