言語学
複数中心地言語
複数中心地言語(多極的言語)とは、国境を越えて複数の国や地域で話され、それぞれに独立した標準語や規範を持つ言語のことです。その定義や具体例、言語学的な背景を解説します。
📌 主なポイント
- ✓複数中心地言語とは、複数の国や地域でそれぞれ独立した標準語や規範を持つ言語のことである。
- ✓地理的、政治的、民族的な隔絶が、同一言語内に複数の規範が生まれる主な要因となる。
- ✓セルボ・クロアチア語やドイツ語、英語などは、複数中心地言語の代表的な例として挙げられる。
- ✓各規範を同一言語とみなすか別言語とみなすかは、政治的・民族的アイデンティティと深く関わっている。
複数中心地言語(ふくすうちゅうしんちげんご、英: pluricentric language、独: plurizentrische Sprache)とは、単一の規範ではなく、複数の国や地域においてそれぞれ独立した標準語や規範を持つ言語を指す言語学用語です。多極的言語とも呼ばれます。
概要
複数中心地言語は、歴史的、政治的、あるいは地理的な要因により、話者が複数の政治的・社会的な集団に分断された結果として形成されることが一般的です。各集団が個別に言語の規範を定めたことで、同一の言語でありながら、地域ごとに異なる標準形が存在する状態となります。
これらの規範は、互いに方言の関係にあるとみなされることが多く、多くの場合、話者間での相互理解が可能です。しかし、言語の名称や規範の扱いをめぐっては、政治的なアイデンティティや民族意識と結びつき、議論の対象となることもあります。
形成の背景
複数中心地言語が成立する主な経緯には、以下のような要因が挙げられます。
- 地理的隔絶:国境を越えて広範囲に話される言語において、各地域の言語的特徴を反映した規範がそれぞれ形成されるケース(例:英語、スペイン語)。
- 社会・政治的隔絶:同一地域内であっても、宗教や民族的なアイデンティティの違いにより、社会方言として別個の規範が定められるケース(例:ヒンドゥスターニー語)。
主な例
複数中心地言語の具体例は多岐にわたります。
- 英語:イギリス英語、アメリカ英語など、各地域で異なる標準的な綴りや語彙、発音が存在します。
- ドイツ語:ドイツ、オーストリア、スイスにおいて、それぞれ独自の標準ドイツ語が定められています。
- セルボ・クロアチア語:セルビア語、クロアチア語、ボスニア語、モンテネグロ語の各標準語は、いずれも東ヘルツェゴビナ方言を基盤としていますが、政治的背景から別個の標準形として扱われています。
- ハンガリー語:歴史的な領土分割の結果、ハンガリー国外の居住国においても行政や教育の分野で独自の語彙や表現が用いられるようになり、複数中心地言語としての側面を持つと指摘されています。
言語学的な議論
複数中心地言語における各規範を「同一言語の変種」とみなすか、「別個の言語」とみなすかは、言語学的な基準だけでなく、話者の政治的・民族的意識に大きく左右されます。例えば、ルーマニア語とモルドバ語の関係や、朝鮮語における南北の標準語(大韓民国標準語と文化語)の呼称問題などは、その典型的な例です。
よくある質問
複数中心地言語とは何ですか?
複数の国や地域で話され、それぞれの地域で独立した標準語や規範が定められている言語のことです。
なぜ一つの言語に複数の標準語が存在するのですか?
話者が地理的、民族的、政治的な理由で分断され、それぞれの集団が独自の規範を定めたことが主な理由です。
複数中心地言語の例を教えてください。
英語、ドイツ語、スペイン語、セルボ・クロアチア語、ヒンドゥスターニー語などが代表例です。
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参考文献
- 三谷惠子 (1993). “現在のクロアチア語について”. 『スラヴ研究』 40: 75-96.
- JGYPK. "2.2. A többközpontú magyar nyelv".