多環芳香族炭化水素の化学的性質と環境影響

📌 主なポイント
- ✓多環芳香族炭化水素(PAH)は、ヘテロ原子や置換基を持たない縮合芳香環から構成される炭化水素の総称である。
- ✓親油性が高く水に溶けにくいため、環境中では主に土壌の堆積物や油性物質に蓄積しやすい。
- ✓化石燃料の燃焼や有機物の不完全燃焼、加熱調理された食品などから発生することが知られている。
多環芳香族炭化水素(たかんほうこうぞくたんかすいそ、英: polycyclic aromatic hydrocarbon、PAH)は、ヘテロ原子や置換基を含まない芳香環が縮合した構造を持つ炭化水素の総称であり、縮合環式炭化水素とも呼ばれます。化学物質としては100種類以上が知られており、その多くは有機物の不完全燃焼などに伴って生成されます。
![おもな多環芳香族炭化水素の例。左上:ベンズ[e]アセフェナントリレン、右上:ピレン、下:ジベンズ[a,h]アントラセン](/images/d3/b5/d3b58e746b660dff94b4589de3e3712dd5b51960c3cdac36604c0be4a5046071.png)
化学的構造と性質
定義上、多環芳香族炭化水素は複数の芳香環が結合した構造をとり、環にヘテロ原子や置換基を持たないのが一般的です。米国環境保護庁(EPA)などの一部機関では、ナフタレンを最も単純な多環芳香族炭化水素として位置づけています。環の大きさや配列によって四員環、五員環、六員環、七員環などが存在しますが、特に六員環のみで構成されるものは結合交代多環芳香族炭化水素と呼ばれます。





物理的特性として、多環芳香族炭化水素は強い親油性を示します。一般に分子量が大きくなるにつれて水への溶解度が低下し、不揮発性の傾向が強まります。そのため、環境中では水に溶けにくく、土壌中の堆積物や油性物質に吸着して存在することが多いです。







発生源と環境中の動態
多環芳香族炭化水素は、化石燃料の利用や、木材・タバコ・脂肪などの炭素含有物質の不完全燃焼によって広く発生します。また、焼き肉などの加熱調理された食物中や、タール等の化石燃料由来の沈殿物からも検出されます。燃焼時の条件によって生成される異性体の相対的な比率が異なるため、環境科学においては汚染源(エンジン排気か森林火災かなど)を特定するための手がかりとして利用されることがあります。
ヒトへの健康影響
多環芳香族炭化水素の毒性や発癌性は、分子を構成する環の数や異性体の構造によって異なります。なかでもベンゾ[a]ピレンは、強い発癌性が確認された代表的な物質です。アメリカ合衆国環境保護庁をはじめとする機関では、複数の多環芳香族炭化水素を発癌性物質や変異原性物質として分類・警戒しています。