精神医学
心的外傷後ストレス障害(PTSD)の概要と治療

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の定義、症状、および認知行動療法や薬物療法を含む治療アプローチについて解説します。
📌 主なポイント
- ✓PTSDは生命の安全が脅かされる出来事による精神的衝撃が原因で発症する。
- ✓診断には症状が1か月以上持続することが必要であり、1か月未満は急性ストレス障害(ASD)とされる。
- ✓治療の第一選択は認知行動療法やEMDRなどの精神療法であり、薬物療法は補助的な選択肢である。
心的外傷後ストレス障害(Post-traumatic stress disorder、PTSD)は、生命の安全が脅かされるような極めて強い精神的衝撃(トラウマ)を経験した後に生じるストレス障害です。戦争、災害、事故、犯罪、虐待などが主な原因となり、日常生活に著しい苦痛や機能障害をもたらします。

診断と症状
PTSDの診断には、恐怖や無力感を伴う出来事の後、特定の症状が1か月以上持続することが要件となります。1か月未満の場合は急性ストレス障害(ASD)と分類されます。研究の歴史的背景から、かつては戦争帰還兵の診断として発展しましたが、現在では市民生活における性的暴力や家庭内暴力なども主要なストレッサーとして認識されています。また、慢性的なトラウマについては、ICD-11において「複雑性PTSD」という概念が導入されました。
治療アプローチ
治療の第一選択は精神療法であり、トラウマに焦点を当てた認知行動療法(CBT)やEMDRなどが有効とされています。薬物療法については、SSRI系の抗うつ薬が選択肢となりますが、世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、精神療法が利用できない場合や中等度以上のうつ病が併存している場合の補助的な手段として位置づけられています。特に急性期の不眠症に対するベンゾジアゼピン系の投与は、症状の悪化や治療効果を阻害する可能性があるため、推奨されていません。
よくある質問
PTSDと急性ストレス障害(ASD)の違いは何ですか?
症状が持続する期間が異なります。出来事から1か月以上症状が続く場合はPTSD、1か月未満の場合は急性ストレス障害(ASD)と診断されます。
PTSDの治療に薬は使われますか?
SSRI系の抗うつ薬が使用されることがありますが、精神療法が優先されます。WHOのガイドラインでは、精神療法が困難な場合やうつ病が併存する場合の選択肢とされています。
複雑性PTSDとは何ですか?
児童虐待など、繰り返し加害されるような慢性的なトラウマを背景に持つPTSDを指し、ICD-11において従来のPTSDとは別に分類されました。
関連記事
認知行動療法精神医学トラウマうつ病
参考文献
- JAMA Psychiatry, 77(12), 1235-1245. doi:10.1001/jamapsychiatry.2020.2148
- 金吉晴ら (2003). 災害時地域精神保健医療活動ガイドライン.
- Markowitz, J. C., et al. (2015). Is Exposure Necessary? American Journal of Psychiatry, 172(5), 430-440.