地理学・国土計画

流域圏の概念と日本の国土計画における変遷

日本の全国総合開発計画における「流域圏」の概念の変遷、自然地理学的な流域との違い、社会的・歴史的背景を解説する百科事典記事です。

📌 主なポイント

  • 流域圏とは、河川の流域や関連する水利用地域、氾濫原を含む一定の範囲の地域圏域を指す。
  • 第三次全国総合開発計画(1977年)と第五次全国総合開発計画(1998年)の両方で「流域圏」の概念が登場するが、その定義や概念は異なる。
  • 三全総における流域圏構想は、矢作川での取り組みにヒントを得て国土管理のテーマとして取り入れられた。
  • 自然地理学的な「流域」が分水界に囲まれた集水域であるのに対し、近代以降の社会経済圏は交通網の発達により水系を横断して拡大した。

流域圏(りゅういきけん)とは、河川の流域および関連する水利用地域や氾濫原を含めた一定の範囲の地域、すなわち圏域を指す言葉である。水質保全、治山・治水対策、土砂管理、さらに森林や農用地の管理など、地域が共通して抱える課題に対して、関係する地域が共同して取り組む際の枠組みとして形成される。これは『21世紀の国土のグランドデザイン』(第五次全国総合開発計画、以下「五全総」)において提示された概念であるが、第三次全国総合開発計画(以下「三全総」)における流域圏とは概念が異なると明記されている。

全国総合開発計画における流域圏の変遷

日本の全国総合開発計画の歴史において、「流域圏」という用語や概念は時代背景や政策の転換とともに位置づけを変えてきた。

第三次全国総合開発計画における導入

1977年に策定された三全総は、ポスト「日本列島改造論」として位置づけられ、高度経済成長から安定成長への移行期にあたる。この計画では「田園都市・定住圏構想」がテーマとされ、水系に着目した「流域圏」構想が盛り込まれた。この構想は、乱開発や高度成長に対する歯止めを意識した側面もあった。当時、国土庁に所属していた下河辺淳によれば、三全総策定以前から矢作川において進められていた取り組みにヒントを得て、国土管理上の重要なテーマとして取り入れられたという。しかし、計画の実施にあたっては依然として開発や経済発展の思想が強く求められ、交通・輸送基盤や情報通信網の整備が優先された結果、流域圏構想が実際に展開されたのはごく一部の地域にとどまった。

第四次全国総合開発計画での停滞

1987年の第四次全国総合開発計画(四全総)では、東京一極集中や都市化の進行に対し、多極分散型国土の形成が目指されたが、「流域圏」に関する議論は深まりを見せなかった。

第五次全国総合開発計画における再定義

1998年に策定された五全総(『21世紀の国土のグランドデザイン』)では、バブル経済の崩壊や人口減少時代の到来を背景に、国土政策の軸足が「開発」から「維持・管理」へと移行した。この中で再び「流域圏」の構想が提示され、冒頭に述べたような水質保全や治山・治水、地域連携の枠組みとしての国土管理の色彩が強められた。なお、五全総では三全総時の流域圏とは概念が異なることが明記されている。

流域と流域圏、そして社会経済圏の関係

自然地理学における「流域」は、分水界に囲まれた集水域を指す言葉であり、河川や周囲の地形という自然的条件によって規定される。その空間的な広がりは生態圏に近い。

歴史的・社会的にも、農山村の集落は河川の流れに沿って形成されてきた。しかし近代以降、鉄道や道路などの交通基盤の整備や自動車の普及により、「社会経済圏」は山谷や河川といった自然条件の制約を克服しながら拡大していった。新しく形成された交通網の多くは水系を横断する形で発展し、それに伴って市街地が連たん・拡大した。

その結果、一般の人々にとって流域という考え方は次第に希薄になり、異常渇水や台風などの災害時以外には意識されにくくなった。こうした背景から、開発計画の多くは自然の流域ではなく、拡大した社会経済圏の広がりに合わせた形で計画・実施される傾向にあった。

よくある質問

流域圏とはどのようなものですか?
河川の流域や関連する水利用地域、氾濫原を含んだ一定の範囲の地域を指し、水質保全や治山・治水対策、森林・農用地の管理などについて地域が共同で取り組むための枠組みとして形成される圏域です。
三全総と五全総の流域圏にはどのような違いがありますか?
三全総における流域圏構想は定住圏構想や生活と環境の調和を掲げつつも開発・経済発展の思想が背景にありましたが、人口減少や維持・管理への移行期に策定された五全総では、国土管理や地域共有の課題解決のための枠組みとして再定義されており、概念が異なります。
自然地理学的な「流域」と「社会経済圏」はどう違いますか?
流域は分水界に囲まれた集水域という自然条件に基づく空間ですが、社会経済圏は近代以降の鉄道や道路網、自動車の普及などにより、自然の山谷や河川の制約を越えて広がりを見せた経済活動の範囲です。

関連記事

水循環流域全国総合開発計画国土計画

参考文献

国土庁 『第三次全国総合開発計画』 (1977年)
国土庁 『第五次全国総合開発計画(21世紀の国土のグランドデザイン)』 (1998年)