環境科学・災害

塩害の概要とメカニズム:農業・インフラにおける影響と対策

塩害の概要とメカニズム:農業・インフラにおける影響と対策
塩分に起因する植物や建築物への害の総称である塩害について、農業被害、乾燥地や灌漑による塩分集積、インフラへの影響、そして具体的な対策や事例を解説します。

📌 主なポイント

  • 塩害は、海岸付近の潮風や海水浸透だけでなく、乾燥地における灌漑や冬期の融雪剤散布によっても発生する。
  • 農業分野では、高塩分環境による植物の枯死や、津波・海水の遡上による水田等の土壌汚染が問題となる。
  • コンクリート構造物においては、塩化物イオンによる鉄筋の腐食と膨張がひび割れや剥落を引き起こす原因となる。

塩害(えんがい)は、塩分に起因して植物の生育が阻害されたり、各種建築物や構造物が急速に劣化・腐食したりする現象の総称である[1]。主に海岸付近で海水に含まれる塩分が原因となるほか、乾燥地における塩分集積、冬期の道路散布による融雪剤など、多岐にわたる要因で発生する。

激しい塩害に見舞われた土地。塩が地面や柱まで覆っている。
激しい塩害に見舞われた土地。塩が地面や柱まで覆っている。

発生要因と地理的範囲

海岸近くでは、海水を含んだ潮風の吹き付けや、土壌への海水浸透、津波による一時的な冠水などにより塩害が生じる。通常、海水塩に由来する被害は海岸から数キロメートル以内の地域で発生することが多いが、台風などの強風を伴う気象条件によっては、内陸部へまで塩分が運ばれ広範な被害をもたらすことがある[3]。

また、海や塩湖の近隣に限らず、内陸部の乾燥地帯や人工的な水管理、化学物質の散布によっても同様の障害が発生する。

農業における塩害

マングローブなどの塩生植物を除き、一般的な陸上植物や農作物は高塩分環境への耐性が低いため、生育不良に陥りやすい。対策としては、耐塩性品種の導入や、海岸防災林・防潮堤の整備による事前防御が挙げられる[1]。真水が豊富にある地域では、冠水した農地の排水性を高めて真水を通し、土壌中の塩分を排出する「除塩」が行われることもある。

内陸における塩害で立ち枯れが発生した森林
内陸における塩害で立ち枯れが発生した森林(スペイン バジェス)

乾燥地と灌漑による塩分集積

降水量が少ない乾燥地では、土壌中の塩分が雨水によって流出しにくく蓄積しやすい。さらに大規模な灌漑を継続すると、地下深くに存在していた塩分が水分とともに吸い上げられ、地表付近の水分が蒸発する過程で塩分が地表近くに残留・集積するメカニズムが働き、深刻な塩害を引き起こす[4]。

灌漑による塩害のメカニズム
灌漑による塩害のメカニズム:水に溶けだした地下の塩分が蒸発とともに地表に集積する。

津波や海水の遡上

河川下流部では、潮汐の影響による海水の遡上(塩水くさび)や、大規模災害時の津波によって農地が冠水する被害が発生する。例えば、2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では、沿岸部の広範囲な水田が津波による塩害に見舞われた[6]。また、台風などの越波によってミカン園などの傾斜地農業が打撃を受けることもある。

津波後の塩害で白く変色した水田
津波後の塩害で白く変色した水田(宮城県)

構造物およびインフラへの影響

塩分が付着すると金属の腐食や酸化が促進され、電力設備や建築物、交通インフラに多大な悪影響を及ぼす。

鉄道橋の手すりの腐食
1910年頃建設された旧オーバーシーズ鉄道橋(アメリカ・フロリダ)の手すり。塗装が剥がれ著しく腐食している。

電線・電力設備

塩水は導電性が高いため、海岸近くの電柱や電線に付着すると漏電状態を引き起こし、送電障害を発生させるおそれがある。台風などの強風によって塩分が内陸深くへ飛来した際には、大規模な停電の原因となることもある[3]。

鉄筋コンクリート構造物の劣化

コンクリート内部に侵入した塩化物イオンが内部の鉄筋を腐食させ、腐食に伴う膨張圧によってコンクリートにひび割れや剥落を引き起こす。海水のほか、不十分に洗浄された海砂の骨材利用や、道路の凍結防止剤などが主な原因となる[8]。予防には、かぶり厚さの確保や防錆処理、適切な材料選定が求められる。

ゴールデン・ゲート・ブリッジ
アメリカ・サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジ。定期的な検査や保守塗装が行われている[7]。

融雪剤による環境・構造物への影響

冬季に道路へ散布される凍結防止剤(無機塩など)に含まれる塩素イオンは、自動車の車体や橋梁などの鋼材を腐食させるとともに、周辺の土壌や植物に対しても塩害と同様の枯死・生育不良を引き起こす要因となる[9]。

よくある質問

塩害はどのような場所で発生しますか?
主に海岸から数キロメートル以内の地域で潮風や海水浸透により発生しますが、台風の強風時には内陸部まで被害が及ぶことがあります。また、乾燥地の灌漑地や塩湖周辺、融雪剤が散布される道路周辺でも発生します。
鉄筋コンクリートの塩害はなぜ起きるのですか?
コンクリート内部に侵入した塩化物イオンが鉄筋を腐食させ、それに伴い鉄筋が膨張することでコンクリートにひび割れや剥落が生じるためです。
農業における主な塩害対策は何ですか?
耐塩性のある農品種の選定や育成、海岸防災林・防潮堤の整備、そして冠水した農地に真水を引き入れて塩分を洗い流す「除塩」作業などが行われます。

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塩土化砂漠化干拓東日本大震災

参考文献

  • 「東北発 塩害に強いイネ*地をはう根 土の影響減らす/被災を経て開発 海外普及へ」『読売新聞』夕刊2022年6月6日11面
  • 三菱電機株式会社「各地域における塩害地域の目安」PDF, 2018年。
  • 株式会社ウェザーニューズ「台風24号による塩害被害 東京西部や埼玉など内陸部まで拡大」2018年。
  • 成岡道男ほか「アラル海流域の塩害と地球温暖化への備えの重要性」『農業農村工学会誌』第77巻第3号, 2009年。
  • 時事通信「時事ワード解説>海岸防災林」2022年。
  • 「塩害で米作れない」宮城沿岸の2000ヘクタール、本格調査開始 産経新聞, 2011年。
  • 「土木遺産の香(第66回)世界的なランドマーク「ゴールデンゲート橋」」『建設コンサルタンツ協会誌』268号, 2015年。
  • 「塩害でコンクリ劣化 基町高層団地 外壁を大修理 4年がかり 費用は39億」『中国新聞』1986年8月30日。
  • 国土交通省 北海道開発局「防氷剤の特性について」2020年。