海洋学・気象学
潮位の副振動と気象津波のメカニズム
比較的短周期で発生する潮位の変化である副振動の発生メカニズムや、長崎湾のあびきなどの日本国内における実例と被害について解説します。
📌 主なポイント
- ✓副振動は、通常の潮汐変化である主振動に対して、比較的短周期で発生する潮位の変化を指す。
- ✓主な発生要因には、プラウドマン共鳴や湾の固有周期による共鳴、気圧や波浪による反復共鳴が含まれる。
- ✓長崎湾などで発生する大規模な副振動は「あびき」と呼ばれ、東シナ海上の気圧急変などが原因となる。
- ✓大きな振幅を伴う副振動は、船舶の流出や浸水被害、養殖施設への損壊をもたらすことがある。
副振動(ふくしんどう、英: secondary undulation)とは、通常の潮汐による潮位変化を主振動とした際、それに対して現れる比較的短周期の潮位変化の総称である。成因が明確ではない異常潮の一つとして扱われることがある。
発生メカニズム
副振動は、外洋で発生した津波や微気圧変動、風の影響などによって引き起こされた波が湾内に入り込み、湾の固有周期と反射・共振を起こすことによって発生すると考えられている。主な外力としては、気圧変動によるプラウドマン共鳴、湾の固有周期に基づく共鳴、波浪や気圧等による反復共鳴などが挙げられる。気圧変動を主な外力として発生する気象現象が原因の副振動波は気象津波(メテオ・ツナミ)とも呼ばれる。スイスのレマン湖で観測される「セイシュ」(Seiche)もその一種である。
日本国内における発生例と地域的特徴
日本国内では、鹿児島県、熊本県、長崎県をはじめとする九州西岸において顕著に見られる。特に長崎湾で発生するものは規模が大きく、振幅が3メートルを超えることもある。長崎では方言で「あびき」と呼ばれ、漁業用の網が流される「網引き」が語源であると推測されている。このあびきは、東シナ海大陸棚上で発生した擾乱に伴う急激な気圧変化が主な原因とされている。
主な被害事例
- 1979年3月31日:長崎検潮所で振幅278cmを記録し、湾奥では470cmに達したと推測される。係留ロープが切断された船舶の流出や、三菱重工業長崎造船所でのドックゲート転倒などの被害が発生した。
- 2009年2月24日から26日:長崎県から鹿児島県奄美地方にかけて観測され、熊本県天草市で197cm、長崎港で157cm、鹿児島県上甑島浦内湾で290cmなどの潮位を記録した。天草市での浸水被害のほか、鹿児島県内で小型船30隻の沈没・転覆、上甑島でのマグロ養殖場の被害などが報告された。
- 2011年:東北地方太平洋沖地震の際、箱根の芦ノ湖や富士五湖の西湖において通常の波浪とは異なる長周期の高波(サイスミック・セイシュ)が観測された。
関連項目
- 異常潮位
- 津波
よくある質問
副振動とはどのような現象ですか?
潮汐によって生じる通常の潮位変化を主振動とし、それに対して現れる比較的短周期の潮位変化のことを指します。
長崎湾の「あびき」は何が原因で発生しますか?
東シナ海大陸棚上で発生した擾乱による気圧の急変などが原因となり、湾内の固有波と共鳴して発生するとされています。
気象津波とは何ですか?
プラウドマン共鳴と呼ばれるメカニズムなどにより、気圧変動を主な外力として発生する副振動波の呼称です。
関連記事
異常潮位津波潮汐気圧配置共鳴
参考文献
高野洋雄. “気象津波(meteo-tsunami)”. 日本気象学会. 2022年4月30日閲覧。
2009年2月に上甑島で潮位副振動を発生させた気象場に関する解析. 土木学会論文集B2(海岸工学) Vol.66 (2010) No.1 P181-185
高橋將「石狩湾の津波と副振動」『北海道大學工學部研究報告』第130巻、北海道大学、1986年、17-32頁。
浅野敏之, 山城徹, 齋田倫範, 田中健路「九州東シナ海沿岸で副振動災害を引き起こす気象津波の発生機構に関する研究」『土木学会論文集B2(海岸工学)』第70巻第1号、2014年、79-96頁。
鈴木猛康:2011年東北地方太平洋沖地震で発生した西湖のサイスミック・セイシュ. 土木学会論文集A1(構造・地震工学) Vol.68 (2012) No.4 p.I_152-I_160
2009年2月に上甑島で潮位副振動を発生させた気象場に関する解析. 土木学会論文集B2(海岸工学) Vol.66 (2010) No.1 P181-185
高橋將「石狩湾の津波と副振動」『北海道大學工學部研究報告』第130巻、北海道大学、1986年、17-32頁。
浅野敏之, 山城徹, 齋田倫範, 田中健路「九州東シナ海沿岸で副振動災害を引き起こす気象津波の発生機構に関する研究」『土木学会論文集B2(海岸工学)』第70巻第1号、2014年、79-96頁。
鈴木猛康:2011年東北地方太平洋沖地震で発生した西湖のサイスミック・セイシュ. 土木学会論文集A1(構造・地震工学) Vol.68 (2012) No.4 p.I_152-I_160