赤痢菌(シゲラ)の生物学的特徴と病原性

📌 主なポイント
- ✓赤痢菌は1898年に志賀潔によって発見された。
- ✓ヒトとサルを自然宿主とする通性細胞内寄生性細菌である。
- ✓III型分泌装置を用いて腸管上皮細胞内に侵入し、アクチンを利用して細胞間を移動する。
- ✓A亜群(志賀赤痢菌)は志賀毒素を産生し、特に毒性が強い。
赤痢菌(せきりきん、学名: Shigella)は、腸内細菌科に属するグラム陰性の通性嫌気性桿菌です。ヒトおよびサルを自然宿主とし、経口的に感染することで細菌性赤痢を引き起こす病原細菌として知られています。1898年に日本の細菌学者である志賀潔によって発見され、その属名には彼の名が冠されています。
細菌学的特徴
赤痢菌は大きさ0.5×1-3µm程度の棒状の細菌で、鞭毛を持たないため運動性はありません。ブドウ糖を嫌気的に発酵する能力を持ち、芽胞は形成しません。近縁の大腸菌とは遺伝学的に極めて近い関係にありますが、医学的な臨床上の重要性から、現在でも別種として分類・扱われています。
赤痢菌属は、抗原性の違いにより以下の4つの亜群(種)に分類されます。
- A亜群: S. dysenteriae(志賀赤痢菌)
- B亜群: S. flexneri(フレキシネル赤痢菌)
- C亜群: S. boydii(ボイド赤痢菌)
- D亜群: S. sonnei(ソンネ赤痢菌)
酸に対する抵抗性が比較的強く、胃酸を通過して少量の菌数(10-100個程度)でも発病に至るのが特徴です。
細胞内寄生と感染メカニズム
赤痢菌は、宿主の腸管上皮細胞内に侵入して増殖する「通性細胞内寄生性細菌」です。III型分泌装置と呼ばれる機構を用いて、通常は貪食能を持たない上皮細胞内に自ら侵入する能力を有しています。
感染の過程では、まず腸管のM細胞を介してマクロファージに取り込まれますが、赤痢菌はアポトーシスを誘導してマクロファージから脱出し、基底膜側から上皮細胞へ接着します。細胞内へ侵入した後は、宿主細胞のアクチンを重合させて「アクチンロケット」と呼ばれる推進力を得て細胞質内を移動し、隣接する細胞へと感染を広げていきます。この際、オートファジーによる排除機構を回避するタンパク質(IcsBなど)を保持していることも、感染成立の重要な要因となっています。
病原性と臨床的意義
赤痢菌による感染症である細菌性赤痢は、下痢、発熱、膿粘血便(しぶり腹)を主症状とします。特にA亜群のS. dysenteriaeは、志賀毒素(シガトキシン)を産生し、重篤な症状を引き起こす可能性があります。志賀毒素はリボソームの機能を阻害することでタンパク質合成を停止させ、細胞死を招く外毒素です。
治療には抗生物質が用いられますが、多剤耐性菌の出現が世界的な課題となっています。有効なワクチンは現時点では実用化されておらず、公衆衛生の改善と患者の適切な治療が感染拡大防止の要となります。
よくある質問
赤痢菌はどのように感染しますか?
なぜ少量の菌数で発病するのですか?
大腸菌と赤痢菌の違いは何ですか?
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参考文献
- 吉田眞一他編『戸田新細菌学』南山堂、2007年。
- 竹田美文監修『細菌性赤痢』日本細菌学会、2008年。
- 国立感染症研究所(IDWR)「細菌性赤痢」関連資料。