文化・社会学

趣味の多面的な意味と社会的構造

趣味の概念、英語のhobbyとの違い、美学用語としてのtaste、ピエール・ブルデューの社会階級論に基づく文化消費の構造を詳しく解説します。

📌 主なポイント

  • 趣味という言葉は、自由時間の行為、審美眼、熱中するカテゴリーという複数の意味を持つ。
  • 英語の「hobby」は、向上心を持って長期にわたり打ち込む活動を指すことが多く、日本の「趣味」とはニュアンスが異なる場合がある。
  • 美学用語の文脈における「趣味」は、英語の「taste」に対応する。
  • 社会学者のピエール・ブルデューは、著書『ディスタンクシオン』において趣味と社会階級の不可分な関係を提唱した。

趣味(しゅみ)とは、人間が自由時間に好んで習慣的に繰り返し行う行為や事柄、物の持つ味わいやおもむきを鑑賞する能力、あるいは人間が熱中している専門的なカテゴリーなどを指す言葉である。日本語における「趣味」は幅広い意味合いを含んでおり、個人の嗜好から社会的な文化的営みまで多岐にわたる文脈で用いられている。

趣味の主な意味と分類

一般的に、趣味という言葉は以下の3つの要素に大別される。

  • 自由時間の行為:人間が自由時間に好んで習慣的に繰り返し行う行為やその対象。
  • 審美眼や味わい:物の持つ味わいやおもむきを指し、それを観賞しうる能力。調度品などの選定における美意識に対して「趣味がよい」「趣味がわるい」と評価する場合がこれに該当する。
  • 熱中するカテゴリー:人間が深く熱中している、あるいは詳しい専門的な分野のこと。

職業として成立している範囲の事柄を趣味の領域で行う人は「アマチュア」と呼ばれる。

英語の「hobby」とのニュアンスの違い

日本語の「趣味」と、英語の「hobby」の間にはニュアンスの差異が存在する。英語のネイティブ・スピーカーの感覚では、hobbyとは切手の収集や園芸、美術といった活動を、向上心をもちながらひとりで長期にわたって打ち込んできた活動を指すことが多い。そのため、自分が好きで習慣的に行う行為として日本人が日常的に挙げることが多い「読書」「映画鑑賞」「スポーツ」などは、必ずしもhobbyに含まれない場合がある。

美学用語における「趣味」

美学の文脈における「趣味」は、英語のhobbyではなく「taste(テイスト)」に対応する概念として扱われる。日本における近代の好古趣味などの歴史的展開においても、対象に対する審美的なアプローチや物の見方としてこのtasteの側面が議論されてきた。

趣味者と専門的な熱中

長きにわたり極めて高い度合いで趣味活動に没頭する者は「趣味者(英: hobbyist)」と呼ばれる。特定の分野においてこのように呼ばれることが多く、例えば鉄道趣味や共産趣味などの文脈で用いられることがある。

趣味と社会階級の関係

趣味は個人の自由な選択によってのみ成立していると考えられがちであるが、社会学の分野では社会階級との密接な繋がりが指摘されてきた。フランスの社会学者ピエール・ブルデューは、1979年の著書『ディスタンクシオン』において、趣味が各々の所属する社会階級と不可分であり、「趣味は階級を刻印する」と主張した。

ブルデューによれば、個人の好みや趣味の選択は、選択しなかったものに対する否定的態度を内包しており、社会階級間における卓越化を巡る「象徴闘争」の手段として機能している。個人が育った社会階級やその中で身につけた「卓越化の感覚」は「ハビトゥス」と呼ばれ、あらゆる行動や選択を規定する原理として働く。

一方で、その後の研究においては変化も指摘されている。アメリカの社会学者リチャード・A・ピーターソンらの分析によれば、1990年代以降、社会的地位の高い人々ほどクラシック音楽だけでなくロック音楽なども愛好する「文化的オムニボア(雑食化)」の傾向が見られるようになり、趣味と社会階級の単純な対応関係には変容が生じている。

健康への影響

疫学研究などの分野においては、趣味が多い人ほど全循環器疾患(虚血性心疾患や脳卒中など)の発症リスクが低い傾向にあることが指摘されており、ライフスタイルと健康状態の関連性を示す要素の一つとして注目されている。

よくある質問

日本語の「趣味」と英語の「hobby」はどう違いますか?
英語の「hobby」は、切手収集や園芸などのように向上心を持って長期にわたりひとりで打ち込む活動というニュアンスが強く、日本人が日常的に挙げる「読書」や「映画鑑賞」などは含まれないことがあります。
美学における「趣味」に対応する英語は何ですか?
美学の文脈では、hobbyではなく「taste(テイスト)」が対応する言葉として用いられ、審美眼や物の味わいを観賞する能力を指します。
ピエール・ブルデューは趣味についてどのように主張しましたか?
ブルデューは、趣味が個人の所属する社会階級と密接に結びついており、社会階級間における卓越化を巡る「象徴闘争」や「ハビトゥス」の表れとして機能していると主張しました。

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美学社会階級ピエール・ブルデュー文化資本オタクアマチュア

参考文献

  • Kathryn A. Craft 著、里中哲彦 訳『日本人の9準が知らない英語の常識181』筑摩書房、2018年。
  • 「趣味 | 現代美術用語辞典ver.2.0」大日本印刷。
  • 多田蔵人「「趣味」(Taste)とは何か─近代の「好古」」『好古趣味の歴史: 江戸東京からたどる』文学通信、2020年。
  • 片岡栄美「「文化と意識に関する全国調査」(2019年)にみる文化消費とライフスタイルの社会的特性」中央調査社、2025年閲覧。
  • 中本進一「ハイ・カルチャー/ポピュラー・カルチャーにおけるヘゲモニーの転換と領有に関する一考察」『一橋法学』第2巻第3号、2003年。
  • 「趣味と循環器疾患発症リスクとの関連」国立がん研究センター JPHC Study。