抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)の病態と治療
📌 主なポイント
- ✓SIADHはバソプレッシンの不適切な分泌により、低ナトリウム血症を来す症候群である。
- ✓主な原因として中枢神経疾患、肺疾患、薬剤の影響などが挙げられる。
- ✓治療の第一選択は水分制限であり、重症例では慎重な高張食塩水の投与が行われる。
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(Syndrome of Inappropriate Antidiuretic Hormone Secretion、略称:SIADH)は、本来であれば抑制されるべき状況下においても、抗利尿ホルモンであるバソプレッシンが不適切に分泌、あるいは作用し続けることで、体内の水分が過剰に保持され、結果として低ナトリウム血症を来す症候群です。
病態生理
バソプレッシンは脳下垂体後葉から分泌されるペプチドホルモンであり、腎臓の集合管における水の再吸収を促進する働きがあります。通常、血漿浸透圧が低下した際にはバソプレッシンの分泌は抑制されますが、SIADHではこの調節機構が破綻しています。過剰な水分の再吸収により循環血液量が希釈され、低ナトリウム血症が生じます。また、循環血液量の増加に伴い、腎臓からのナトリウム排泄が促進されるため、低ナトリウム血症がさらに助長されるという悪循環を形成します。
主な原因
SIADHは単独の疾患として発症するよりも、他の疾患の合併症として現れることが一般的です。主な原因には以下が挙げられます。
- 中枢神経系疾患:髄膜炎、脳炎、脳卒中(くも膜下出血など)、脳腫瘍、ギラン・バレー症候群など。
- 肺疾患:小細胞肺癌などの悪性腫瘍、肺結核、肺アスペルギルス症、気管支喘息など。
- 薬剤性:カルバマゼピン、ビンクリスチン、クロフィブラートなどの特定の薬剤。
- その他:膵癌や一部の悪性腫瘍による異所性産生。
臨床像と診断
SIADHの患者では、循環血液量が増加しているため、浮腫は目立たないことが多く、尿量も極端な減少(乏尿)を来すことは稀です。多くの場合、低ナトリウム血症に伴う意識障害、痙攣、頭痛などの神経症状をきっかけに発見されるか、あるいは他の疾患の検査過程で偶然発見されます。
診断においては、副腎不全やアジソン病、あるいは嘔吐・下痢による脱水症との鑑別が重要です。これらも低ナトリウム血症を来しますが、治療方針がSIADHとは大きく異なるためです。
治療法
治療の基本は、過剰な水分摂取を制限することです。神経症状が重篤な場合には高張食塩水の点滴が行われますが、急速な補正は脳浮腫などの重篤な中枢神経障害を引き起こすリスクがあるため、慎重かつ緩徐に行う必要があります。ループ利尿薬の使用は、電解質異常を悪化させる可能性があるため、慎重な判断が求められます。
よくある質問
SIADHで浮腫が見られないのはなぜですか?
なぜ低ナトリウム血症の急速な補正は危険なのですか?
SIADHの治療で最も優先されることは何ですか?
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参考文献
- 日本内分泌学会編「内分泌代謝学」
- 厚生労働省 難治性疾患克服研究事業関連資料
- 各医学的ガイドライン(低ナトリウム血症の診療指針)