統計力学の基礎と理論体系

📌 主なポイント
- ✓統計力学は、微視的な力学法則から確率論を用いて巨視的な物理的性質を導く物理学の分野である。
- ✓歴史的にはマクスウェル、ボルツマン、ギブズらによって気体分子運動論を起点として発展した。
- ✓対象とする系が従う物理法則の違いにより、古典統計力学と量子統計力学に大別される。
- ✓代表的な統計集団として、ミクロカノニカルアンサンブル、カノニカルアンサンブル、グランドカノニカルアンサンブルがある。
統計力学(とうけいりきがく、英語: statistical mechanics または statistical physics)とは、力学系の微視的な物理法則を基礎に据え、確率論の手法を用いて巨視的な物理的性質を導き出すことを目的とする物理学の分野である。統計熱力学(statistical thermodynamics)とも呼ばれる。
歴史的には、理想気体の温度や圧力などの熱力学的な性質を気体分子運動論の立場から演繹することを目的として、ルートヴィッヒ・ボルツマン、ジェームズ・クラーク・マクスウェル、ウィラード・ギブズらによって構築された。
概要
統計力学が対象とする力学系は、典型的にはアボガドロ数(10の23乗オーダー)に代表される膨大な数の粒子によって構成されている。このような系を力学的に完全に指定するには粒子数に比例した莫大な自由度を必要とするが、熱力学的に取り扱う場合は温度や圧力、内部エネルギーなどの少ない状態量(巨視的な物理量)によって指定される。
熱力学的な条件の下で微視的な状態が確率的に出現するものとして考え、状態の集合である標本空間を Ω とし、条件 α の下での確率密度関数 p(ω|α) を用いて期待値として状態量を評価する。
古典統計と量子統計
力学系が従う物理法則に基づき、統計力学は古典統計力学と量子統計力学に大別される。
- 古典統計力学:正準変数により張られる位相空間を標本空間とし、物理量を位相空間上の関数として扱う。
- 量子統計力学:状態ベクトルにより張られるヒルベルト空間を基礎とし、物理量をエルミート演算子として扱う。
古典論においては、位相空間の測度をプランク定数 h で割ることで状態の和を置き換える。量子論においては量子数の組の和として表現される。
確率分布と統計集団(アンサンブル)
力学系が特定の微視的状態を取る確率は、系を特徴付ける条件(エネルギー、温度、化学ポテンシャルなど)によって決まる。代表的な統計集団(アンサンブル)としては以下が挙げられる。
- 小正準集団(ミクロカノニカルアンサンブル):孤立系に対応する。
- 正準集団(カノニカルアンサンブル):等温閉鎖系に対応する。
- 大正準集団(グランドカノニカルアンサンブル):等温等化学ポテンシャル開放系に対応する。
平衡系の統計力学
平衡状態の統計力学は、等重率の原理とボルツマンの公式に基づいている。孤立系においては、エネルギーが一定の範囲内にある微視的状態が等しい確率を持つという等重率の原理が仮定される。また、エントロピー S はボルツマン定数を k_B として S = k_B ln W という形であらわされ、微視的な状態数 W と結び付けられる。
参考文献
Hill, T. L. (1986). An introduction to statistical thermodynamics. Courier Corporation.
Fowler, R. H. (1939). Statistical thermodynamics. CUP Archive.
Schrödinger, E. (1989). Statistical thermodynamics. Courier Corporation.