物性物理学

超固体における量子力学的性質と実験的研究の動向

超固体における量子力学的性質と実験的研究の動向
物質が固体の結晶構造と超流動の特性を同時に持つとされる超固体について、歴史的背景やヘリウム4を用いた実験、極低温量子気体による近年の研究成果を解説します。

📌 主なポイント

  • 超固体は固体の結晶構造と超流動の特性を同時に持つとされる量子相である。
  • 1970年にG. V. Chesterによってボース=アインシュタイン凝縮と量子結晶に関する初期の理論的考察がなされた。
  • 2017年にチューリッヒ工科大学およびマサチューセッツ工科大学の研究グループが極低温量子気体を用いて超固体特性を持つ状態を観測・報告した。

超固体(ちょうこたい、英: Supersolid)は、物質が固体の性質(空間的な結晶構造)を保持しながら、同時に粘性のない流体のような超流動の特性を併せ持つとされる量子相の状態である。

超固体に関連する物理現象の概念図
超固体に関連する物理現象の概念図

背景と理論的予測

歴史的に、超流動は液体ヘリウム4や、金属格子内のクーパー対による超伝導など、流体状態やそれに類する系特有の性質であると考えられてきた。しかし、1970年にG. V. Chesterらが、固体ヘリウム4中においてもボース=アインシュタイン凝縮が生じる可能性があると提唱したことで、超固体の存在に関する理論的検討が始まった。

理論モデルによると、理想的な結晶格子内であっても零点エネルギーの影響により原子の抜け穴である空孔が絶対零度付近で存在し得る。これらの空孔がボゾンとして振る舞い、極低温下でボース=アインシュタイン凝縮を起こすことで、格子構造を保ったまま粒子が摩擦なく移動する現象が起きると仮定されている。

固体ヘリウム4をめぐる実験的検証

2004年、ペンシルベニア州立大学のEun-Seong KimとMoses Chanは、ねじれ振動子を用いた実験により、固体ヘリウム4を満たした容器の慣性モーメントが一部低下する現象を観測した。これは容器内の原子の一部が摩擦なく動いている(非古典回転慣性)と解釈され、超固体の発見ではないかと大きな注目を集めた。

しかしその後の追試や検証により、観測された異常は完全な結晶の特性ではなく、結晶中に含まれる不純物(ヘリウム3など)や欠陥に起因する可能性が指摘された。実際、2012年にはChanらがヘリウムの弾性寄与を排除した改良型の実験装置で再検証を行い、超固体の明確な証拠は見出されなかった。

極低温量子気体による実現

固体ヘリウムでの議論が続く中、2017年にはチューリッヒ工科大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが、極低温量子気体を用いて超固体特性を持つ状態の製造に成功したと相次いで報告した。チューリッヒのグループは光共振器内のボース=アインシュタイン凝縮体を利用し、MITのグループはスピン-軌道カップリングを導入したボース=アインシュタイン凝縮体において密度変調を伴うストライプ相を確立することで、自発的な結晶化と超流動性の両立を実証した。

よくある質問

超固体とはどのような状態ですか?
物質が空間的な結晶構造(固体の性質)を維持しながら、粘性のない流れを示す超流動の特性を同時に備えているとされる量子力学的な状態です。
超固体は最初にどのように予測されましたか?
1970年に物理学者のG. V. Chesterが、量子結晶内でのボース=アインシュタイン凝縮の可能性について論文で提唱したのが初期の理論的背景です。
2017年の実験ではどのように超固体が作られましたか?
チューリッヒ工科大学やマサチューセッツ工科大学などの研究チームが、極低温量子気体(ボース=アインシュタイン凝縮体)を用いて光格子や相互作用を制御し、結晶性と超流動性を併せ持つ相を観測しました。

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参考文献

Ball, Philip (2004). “Glimpse of a new type of matter”. Nature. doi:10.1038/news040112-7.
Chester, G. V. (1970). “Speculations on Bose-Einstein Condensation and Quantum Crystals”. Physical Review A. doi:10.1103/PhysRevA.2.256.
Kim, E.; Chan, M. H. W. (2004). “Probable Observation of a Supersolid Helium Phase”. Nature. doi:10.1038/nature02220.
Léonard, Julian et al. (2017). “Supersolid formation in a quantum gas breaking a continuous translational symmetry”. Nature. doi:10.1038/nature21067.
Li, Jun-Ru et al. (2017). “A stripe phase with supersolid properties in spin–orbit-coupled Bose–Einstein condensates”. Nature. doi:10.1038/nature21431.