航空技術

空中衝突防止装置(TCAS)の概要と仕組み

空中衝突防止装置(TCAS)の概要と仕組み
航空機の空中衝突を防止するために開発されたコンピュータ制御装置「TCAS」の仕組み、機能、搭載義務、および航空管制との関係について解説します。

📌 主なポイント

  • TCASは地上の航空管制に依存せず、航空機同士の通信で衝突を回避する。
  • TCAS IIは回避指示(RA)を出す機能があり、管制指示よりも優先される。
  • トランスポンダを搭載していない、または正常に動作していない航空機は検知できない。

空中衝突防止装置(Traffic alert and Collision Avoidance System、略称:TCAS)は、航空機同士の空中衝突を防ぐ目的で開発されたコンピュータ制御のアビオニクス装置です。地上の航空管制システムに依存せず、自機の周囲を監視して衝突の危険がある他機の存在を操縦士に警告します。国際民間航空機関(ICAO)が定める航空機衝突防止装置(ACAS)の実装形態の一つです。

外周に機械式昇降計を模し中央にTCAS表示を加えたTCASディスプレイ装置
外周に機械式昇降計を模し中央にTCAS表示を加えたTCASディスプレイ装置

技術的仕組み

TCASは、航空機に搭載されたトランスポンダとの往復通信を利用して動作します。TCAS搭載機は1,030MHzの周波数で周囲の航空機に「問い合わせ」を行い、応答機を搭載した他機は1,090MHzで応答します。この通信を毎秒数回繰り返すことで、周囲の航空機の相対位置、高度、速度を三次元的に把握し、将来の衝突の可能性を計算します。

TCAS IIの監視範囲
TCAS IIの監視範囲

TCASの世代と機能

TCAS I

主にゼネラル・アビエーション(一般航空)向けの第一世代技術です。約4海里の範囲を監視し、他機の相対位置や高度情報を提供します。衝突の危険がある場合は「接近情報(TA: Traffic Advisory)」として音声警告を発しますが、回避操作の指示までは行いません。

TCAS II

現代の民間航空機で広く採用されている第二世代技術です。監視範囲は約40海里に及びます。TAに加え、衝突を回避するための「回避指示(RA: Resolution Advisory)」を音声とディスプレイで操縦士に伝えます。RAには、高度変更を指示する「是正RA」と、現在の飛行経路を維持するよう警告する「予防的RA」があります。

水平姿勢指示計と一体化したTCASディスプレイ装置
水平姿勢指示計と一体化したTCASディスプレイ装置

航空管制との優先関係

TCASのRAと航空交通管制(ATC)の指示が食い違う場合、操縦士はTCASのRAを優先して対応することが国際的に定められています。これは、過去の空中衝突事故において、管制指示とTCAS指示の不一致が悲劇的な結果を招いた教訓に基づいています。なお、TCASはトランスポンダを装備していない航空機や、正常に動作していない航空機を検知することはできません。

シーラス SR22TN のコックピット
シーラス SR22TN のコックピット。左側の画面中央に水平姿勢指示計と一体化したTCAS表示がある

よくある質問

TCASのRAと管制指示が矛盾した場合はどうすべきですか?
TCASのRAを優先して対応することが規則で定められています。これは過去の事故の教訓に基づいた安全上の最優先事項です。
TCASはすべての航空機を検知できますか?
いいえ。TCASは正常に動作するトランスポンダを搭載した航空機のみを検知可能です。トランスポンダがない、または故障している航空機は検知できません。
TCAS IとTCAS IIの違いは何ですか?
TCAS Iは接近警報(TA)のみを提供しますが、TCAS IIは回避指示(RA)を提供し、より高度な衝突回避能力を持ちます。

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参考文献

  • 国土交通省航空局「~空中衝突防止装置(TCAS)について~」
  • EASA, "TCAS Version 7.1 requirement in EU airspace"
  • 航空法施行規則 第147条