無機化学
チオ硫酸:化学的性質と応用

チオ硫酸(H2S2O3)の化学的性質、構造、およびその塩であるチオ硫酸塩の工業的・医学的利用について解説します。
📌 主なポイント
- ✓チオ硫酸の化学式はH2S2O3であり、二価の無機酸である。
- ✓遊離のチオ硫酸は不安定で、強酸性水溶液中では硫黄と二酸化硫黄に分解する。
- ✓チオ硫酸塩はヨウ素滴定の試薬や写真の定着剤として広く利用されている。
チオ硫酸(英語: thiosulfuric acid)は、化学式 H2S2O3 で表される硫黄のオキソ酸の一種です。本稿では、チオ硫酸そのものに加え、その塩であるチオ硫酸塩およびチオ硫酸イオンの性質と応用について解説します。
化学的性質
チオ硫酸は二価の無機酸であり、酸解離定数は pKa1 = 0.6、pKa2 = 1.74 です。遊離のチオ硫酸は極めて不安定であり、水溶液中では強酸性条件下で不均化を起こし、コロイド状硫黄と二酸化硫黄に分解するため、単離は困難です。低温下でジエチルエーテル錯体として単離された例や、液体二酸化炭素中での単離例が知られています。


チオ硫酸塩
チオ硫酸イオンは四面体構造をとり、中心の硫黄原子に別の硫黄原子と3つの酸素原子が結合しています。この構造により、中心の硫黄原子は酸化還元能や錯体形成能といった特有の化学的性質を示します。
チオ硫酸塩の多くは水溶性が高く、中性からアルカリ性水溶液中では比較的安定です。代表的な塩には以下のものがあります。




主な用途
分析化学
チオ硫酸イオンは、単体ハロゲンを定量的に還元して硫酸イオンへ変化させるため、ヨウ素滴定における標準試薬として広く利用されています。
写真プロセス
写真の定着工程において、未感光の難溶性ハロゲン化銀を銀のチオスルファト錯体として可溶化し、除去するために用いられます。
医学・環境
チオ硫酸イオンは毒性が低く、キレート能力を持つため、水銀や銅、鉛などの重金属中毒の解毒薬として使用されることがあります。また、シアン化水素中毒の治療にも用いられます。環境面では、水道水の残留塩素除去剤として利用される一方、富栄養化の原因となるため、廃棄時には酸化分解処理が推奨されます。
よくある質問
チオ硫酸は安定な物質ですか?
いいえ、遊離のチオ硫酸は非常に不安定で、常温では容易に分解します。塩の状態では中性からアルカリ性水溶液中で比較的安定です。
チオ硫酸ナトリウムはなぜ写真に使われるのですか?
難溶性のハロゲン化銀と反応して水溶性の錯体を形成し、現像されなかった銀を除去(定着)する能力があるためです。
チオ硫酸塩は毒性がありますか?
チオ硫酸イオン自体の毒性は低く、医療現場では重金属やシアン化物の解毒剤として利用されることもあります。
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参考文献
- Macintyre, J. E. (1992). Dictionary of Inorganic Compounds. Chapman & Hall.
- Page, F. M. (1953). "The dissociation constants of thiosulphuric acid". J. Chem. Soc.
- Perrin, D. D. (1982). Ionisation Constants of Inorganic Acids and Bases in Aqueous Solution. IUPAC.
- 長倉三郎ら編 (1999). 『岩波理化学辞典』第5版. 岩波書店.