航空技術

航空機における逆推力装置の仕組みと運用

航空機における逆推力装置の仕組みと運用
ジェットエンジンやプロペラ機の推力を反転させて着陸時の滑走距離を短縮する逆推力装置(スラストリバーサー)の構造、動作原理、運用について解説します。

📌 主なポイント

  • 逆推力装置(スラストリバーサー)は、ジェットエンジンやプロペラ機の推力方向を逆転させて航空機を減速させる装置である。
  • おもに着陸後の初期滑走で使用され、滑走距離を短縮する役割を持つ。
  • 高バイパス比ターボファンエンジンでは、バイパス空気流の方向を変えて制動力を得るカスケード方式が広く用いられている。

逆推力装置(ぎゃくすいりょくそうち、英: thrust reverser)とは、ジェットエンジンやプロペラ機において、発生する推力の向きを後方から斜め前方へ変更し、航空機を減速させるために用いられる装置です。

エアバスA321のCFM56エンジンに搭載された逆推力装置
エアバスA321のCFM56エンジンに搭載された逆推力装置

主に着陸後の初期における高速滑走状態で使用され、滑走距離を短縮する目的で用いられます。滑走速度が低下した後は、おもに車輪ブレーキとスポイラーによる制動が行われます。接地直後の数秒間は、機体を減速させるための逆推力を得るためにエンジン出力が増大されるため、エンジン音が一段と大きくなります。

構造と方式

一般的なジェット機では、搭載しているエンジンの構造により、大きく分けて2種類の方式が採用されています。

逆噴射を行いながら降下するDC-8
逆噴射を行いながら降下するDC-8

ターボジェットエンジン・低バイパス比ターボファンエンジン

ターボジェットエンジンや低バイパス比のターボファンエンジンでは、エンジン後方のノズルに蓋をするような装置が備わっており、機体後方に噴射していた排気ガス全体を機体斜め前方に反射して制動力を得ます。これはクラムシェル方式、バケット方式、またはターゲット方式と呼ばれます。効率に優れる反面、高温の排気ガスにさらされるため耐熱性の高い材料が必要となります。

着陸直前にリバーサーを展開するIL-62
着陸直前にリバーサーを展開するIL-62
ノズル部分拡大
ノズル部分拡大
逆推力装置 展開前
逆推力装置 展開前
逆推力装置 展開後
逆推力装置 展開後

高バイパス比ターボファンエンジン

近年の大型旅客機などに採用されている高バイパス比のターボファンエンジンでは、コアエンジンを覆っているバイパス空気流の噴射方向を斜め前方へ偏向し、コアエンジンを通過した燃焼ガスはそのまま機体後方へ噴射し続けます。制動力となるのは前方に偏向されたバイパス流の推力成分であり、これはカスケード方式、またはコールドストリーム方式と呼ばれます。

逆推力装置を展開しているボーイング777
逆推力装置を展開しているボーイング777。エンジン周りのリング状の隙間からバイパス空気流を前方に噴射する

バイパス流のみを偏向するため高温のガスにさらされにくく、アルミニウム合金などの軽量な材料が使用できる利点があります。

操作と制御

逆推力の操作は、操縦席のスラストレバーによって行われます。多くの操縦環境では主スラストレバーに付随して逆推力レバーが取り付けられており、主スラストレバーがアイドル位置(推力最小状態)にあるときのみ逆推力位置へ操作することが可能です。逆推力の強度は「リバース・アイドル」から「フル・リバース」まで無段階で調整できます。

プロペラ機の逆推力機構

C-130ハーキュリーズのプロペラの可変ピッチ構造
C-130ハーキュリーズのプロペラの可変ピッチ構造

プロペラ機(ターボプロップエンジン機を含む)においても逆推力機構が存在しますが、ジェット機とは仕組みが異なります。プロペラのブレード角度(ピッチ)を変更することで、それまで後方に押しやっていた空気を前方に押し出し、逆推力を発生させて制動を行います。

よくある質問

逆推力装置はどのような目的で使用されますか?
主に着陸後の高速滑走状態で使用され、機体の滑走距離を短縮するために用いられます。
ジェット機とプロペラ機では逆推力の仕組みがどう異なりますか?
ジェット機は排気ガスやバイパス空気を偏向して逆噴射させるのに対し、プロペラ機はプロペラのブレード角度を変更して空気を前方に押し出すことで制動します。

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参考文献

Wragg, David W. (1973). A Dictionary of Aviation (first ed.). Osprey. p. 223. ISBN 9780850451634. / 松岡増二著 『新航空工学講座8 ジェット・エンジン(構造編)』 日本航空技術協会 ISBN 4-930858-48-8.