物理化学・原子力科学

トリチウム水の特徴と環境動向に関する科学的考察

トリチウム水の特徴と環境動向に関する科学的考察
三重水素(トリチウム)を含む水分子であるトリチウム水の基礎的な物理的性質、自然界や原子力施設における存在、および福島第一原子力発電所の処理水問題に関する科学的背景を解説します。

📌 主なポイント

  • トリチウム水は、通常の水素の代わりに放射性同位体であるトリチウム(三重水素)を含む水分子(HTO、DTO、T2Oなど)の総称である。
  • トリチウムは12.32年の半減期をもってβ崩壊し、ヘリウム3へ変化する。
  • 日本における発電用原子力施設の液体廃棄物に関する規制では、周辺監視区域外の水中濃度限度が6万 Bq/Lと定められている。

トリチウム水(英: tritiated water)とは、水素の放射性同位体である三重水素(トリチウム)を含む水分子の総称である。広義の重水の一部に位置づけられ、水素・トリチウム・酸素各1原子で構成されるHTO、重水素・トリチウム・酸素各1原子のDTO、トリチウム2原子と酸素1原子のT2Oなどが存在する。

アイソトープ置換された水分子の構造
アイソトープ置換された水分子の構造

トリチウムは半減期12.32年でβ崩壊を起こし、ヘリウム3へと変化する性質を持つ。物理化学的性質としては、通常の水と類似しているものの、モル質量や融点・沸点などの物理定数において軽水とは差異が認められる。

トリチウム水の分子特性データ関連図
トリチウム水の分子特性データ関連図

発生源と環境中の存在

トリチウムは自然界において、大気上層で宇宙線粒子と空気分子の原子核との相互作用によって生成される。また、原子力施設の通常運転に伴い、液体や水蒸気の形態で環境中へ放出されている。国際原子力施設からの放出は長年にわたり行われており、イギリス、カナダ、フランス、アメリカ、中国、日本などの各国でそれぞれの規制基準に基づいた管理が実施されている。

原子力施設からの放出と規制基準

国際放射線防護委員会(ICRP)の評価に基づき、各国はトリチウムの線量係数を考慮して排水および環境中の濃度限度を法律で定めている。例えば、日本における発電用原子力施設では、周辺監視区域外の水中の濃度が60 Bq/cm3(6万 Bq/L)を超えないように規制されている。また、世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドラインでは10,000 Bq/Lと定められているなど、国や機関によって基準値に差異が存在する。

放射性崩壊の数式モデルを示す図
放射性崩壊の数式モデルを示す図

福島第一原子力発電所における処理水問題

2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故では、溶融燃料を冷却するための注水や地下水の流入により、高レベルの放射性物質を含む汚染水が建屋地下に継続して発生した。多核種除去設備(ALPS)等による浄化処理を経た水にはトリチウム水が残存し、敷地内のタンクに保管されてきた。

原子数と放射能の関係式
原子数と放射能の関係式

日本政府は、タンク容量の限界や廃炉作業への影響を考慮し、2021年4月にトリチウムを含む処理水を海水で十分に希釈した上で、WHOの飲料水水質ガイドラインの約7分の1にあたる約1500 Bq/Lの濃度に調整して海洋放出する方針を決定した。

トリチウム原子の総数算出計算の過程
トリチウム原子の総数算出計算の過程

よくある質問

トリチウム水とはどのような物質ですか?
トリチウム水は、水分子を構成する水素原子の一部または全部が、放射性同位体である三重水素(トリチウム)に置き換わった物質の総称です。
トリチウムの半減期はどれくらいですか?
トリチウムの半減期は12.32年であり、β崩壊を起こして安定なヘリウム3へと変化します。
福島第一原発の処理水に含まれるトリチウム水はどのように処分されますか?
多核種除去設備等で処理された後、海水で大幅に希釈され、国の規制基準およびWHOのガイドライン値を下回る濃度(約1500 Bq/L)に調整した上で海洋放出する方針が採られています。

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水素重水素放射性同位体福島第一原子力発電所事故ALPS処理水

参考文献

  • PubChem: Tritium oxide
  • W. M. Jones (1952). The Triple Point Temperature of Tritium Oxide
  • UNSCEAR 2016年報告書 科学的附属書C
  • 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書