物理学・音響工学

超音波の物理的性質と産業・自然界における応用

超音波の物理的性質と産業・自然界における応用
人間の可聴域を超える高周波音「超音波」の周波数範囲、医療や産業分野における多様な用途、そしてコウモリやイルカなどの生物による利用について解説します。

📌 主なポイント

  • 超音波とは、人間の可聴域を超える約20kHz以上の周波数を持つ音波である。
  • 波長が短いため直進性が高く、反射しやすいという物理的特性を持つ。
  • 産業・医療分野では、計測、非破壊検査、画像診断、洗浄、加工など極めて幅広い用途で活用されている。
  • コウモリやイルカなどの動物は、エコーロケーション(反響定位)に超音波を利用している。

超音波(ちょうおんぱ、英語: ultrasound または ultrasonic)とは、人間の可聴域である約20Hzから20kHzを超える高い周波数を持つ音波の総称である。物理的な性質自体は通常の音波と変わらないが、波長が極めて短いため直進性が高く、障害物にあたった際に反射しやすいという顕著な特徴を持つ。広義には「聞くこと以外を目的とする音」を指し、可聴域であっても計測や洗浄などの用途で利用される場合は超音波の概念に含まれることがある。

周波数による超音波の分類。画像上、緑の範囲内。
周波数による超音波の分類。画像上、緑の範囲内。

周波数範囲と実用上の特性

超音波の下限周波数については、一般に20kHz以上の音波とする定義が広く用いられている。例えば広辞苑では「超音波は振動数が毎秒2万ヘルツ以上で定常音として耳に感じない音」と定義されている。人間が聴き取ることはできないが、発声に関しては20kHzを超える成分を意図せず、あるいは発声することができる場合もある。一方、上限については特に厳密な規定はないが、科学技術の発展に伴い数GHzまでの発生が可能となっている。ただし、周波数を高めても伝搬媒体とのインピーダンスが整合していなければキャビテーションが発生して伝搬できないため、これが実用上の上限をもたらす要因となる。

実用面では、周波数帯域によって用途が明確に分かれている。低い周波数帯(数十kHz帯)はキャビテーションによる破壊力を伴う洗浄や加工に適しており、高い周波数帯(MHz帯以上)は波長の短さを活かした高精度な画像診断や計測に用いられる。さらに高いGHz帯の超音波は、スマートフォンの通信フィルタ(SAWフィルタ)など、電子部品の内部で弾性表面波として高度に利用されている。

多様な用途

超音波の利用は、大きく分けて「情報の伝達・計測」と「エネルギーの照射」の2つに分類される。前者は波の反射や散乱を捉えることで内部を可視化し、後者は強力な振動波によって物理的な変化を引き起こす。

情報の伝達・計測

工業や医療、日常生活における計測・探査技術として幅広く活用されている。

  • 距離計(自動車周辺の障害物検出、車両感知器、積雪計など)
  • 漏洩検査(ガス・水道管のリークセンサ)
  • 非破壊検査装置(超音波探傷検査、レーザー超音波計測)
  • ソナー(魚群探知機)および測深機
  • 音波指紋センサー(スマートフォンの画面内指紋認証など。皮膚の溝を立体的にスキャンするため、指が濡れていても精度が高く偽造も困難とされる)
超音波流量計による流量計測
超音波流量計による流量計測

医療用超音波検査

人体への侵襲が少ない画像診断法として、臨床の現場で不可欠な技術となっている。

超音波検査
超音波検査
  • 胎児超音波検査
  • 腹部・心臓・頸部・乳房などの血管・臓器超音波検査
  • 経膣超音波検査および運動器超音波検査
  • 超音波内視鏡や気管支腔内超音波断層法
胎児の超音波スキャン
胎児の超音波スキャン

エネルギーの照射・加工・治療

強力な振動エネルギーやキャビテーション効果を利用して、物質の加工や医療的処置を行う。

超音波洗浄機
超音波洗浄
  • 超音波洗浄機(精密部品やメガネなどの洗浄)
  • 超音波加工機(超音波カッター、ドリル、溶接、研磨)
  • 超音波カッター
    超音波カッター
  • 超音波モータ(カメラ用レンズのAFやズーム制御、腕時計の駆動)
  • 高密度焦点式超音波治療法(前立腺癌や胆石・脳血栓の破壊・除去)および超音波骨折治療法
  • 超音波加湿器およびネブライザなどの霧化機
  • 超音波加湿器
    超音波加湿器
  • 超音波ホモジナイザー(液中粒子のナノレベル粉砕・分散・乳化)
  • 空中超音波触覚ディスプレイ(フェーズドアレイ技術による非接触触覚提示)

なお、過去には超音波を用いた一部のダニ撃退・蚊よけ商品について、公正取引委員会が効果が認められないとして排除命令を出した事例も存在する。

自然界における超音波の利用

コウモリは超音波を利用して暗闇を移動する。
コウモリは超音波を利用して暗闇を移動する。

自然界においては、多くの動物が生活や狩りのために超音波を巧みに利用している。コウモリは口や鼻から超音波を発し、その反響を捉えて周囲の状況を把握する反響定位(エコーロケーション)を行うことで、暗闇の中でも正確な移動や捕食を行う。イルカも同様に、鼻腔で発した音波を頭部の脂肪組織(メロン)で集束させて指向性の高い音波を発信し、反響定位やコミュニケーションに役立てている。これらの生物が超音波を用いるのは、波長が短いために小さな障害物や獲物に当たっても回折しにくく、明瞭な反射波が得られるという物理的利点があるからである。

よくある質問

超音波の周波数の下限はどれくらいですか?
一般的に人間の可聴域の上限とされる約20kHz(毎秒2万ヘルツ)以上の周波数を持つ音波が超音波と定義されています。
なぜコウモリは超音波を使用するのですか?
超音波は波長が短いため小さな獲物に当たっても回折しにくく、明瞭な反射波を得ることができるため、暗闇での正確な位置把握や狩りに適しているからです。
医療分野ではどのように使われていますか?
胎児の超音波検査をはじめ、腹部、心臓、血管などの画像診断や、超音波骨折治療法などの治療用途に活用されています。

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音波周波数超音波検査エコーロケーションキャビテーション

参考文献

  • 谷腰欣司『超音波の本』ISBN 4526053554
  • 谷腰欣司, 谷村康行『トコトンやさしい超音波の本 第2版』日刊工業新聞社, 2015年.
  • 帝人ファーマ株式会社 “超音波骨折治療法とは”
  • TDK株式会社 “超音波で霧をつくり出す加湿器のしくみ”
  • 日経テクノロジーonline “日本酒製造に使った霧化技術を、廃液処理やリサイクルに活用” (2013年9月10日)
  • 公正取引委員会 “株式会社オーム電機に対する排除命令について” (2007年11月20日)
  • 国立大学法人秋田大学 大学院工学資源学研究科 今野研究室 “イルカやコウモリの音によるナビゲーション”