航空機の可変翼技術の構造と歴史

📌 主なポイント
- ✓可変翼(VG翼)は、飛行中に主翼の後退角や形状を変化させることで低速から高速まで適切な揚力と空気抵抗を得る機構である。
- ✓世界初の飛行可能な可変翼実験機はアメリカのX-5であり、1951年に飛行試験が行われた。
- ✓初の実用機はアメリカのF-111であり、コンピュータ制御のCAS導入によって操縦特性の問題を克服した。
- ✓複雑な機構による重量増加、コスト高、エンジンの発達、およびステルス設計との相性の悪さなどから、1970年代以降は新設計での採用が減少した。
可変翼(かへんよく)とは、飛行中に主翼の形状や後退角を変化させ、異なる飛行速度や条件に応じて最適な揚力と低い空気抵抗を両立させる機構を持つ翼の総称である。英語ではVariable Geometry wing(可変形状翼)と呼ばれ、VG翼とも称される。操縦舵面やフラップなどの軽微な変形とは異なり、翼平面形そのものが大きく変化するものを指す。

可変翼の機構と開発の歴史
低速巡航時や離着陸時には、高い揚力を得るために翼幅荷重が低く後退角が小さい状態が望ましい。一方、高速時には空気抵抗を減少させるために後退角を大きくし、翼幅を小さくすることが求められる。通常の航空機では飛行中にこれを変更できないため、特別な機構が必要となる。

黎明期の研究では、胴体内にレールを設けて翼根を前後に動かす方式が検討された。これは後退角の変化に伴う重心や空力中心の移動を抑制することが目的であったが、構造が複雑で重量が大きく実用には至らなかった。その後、主翼の根元付近にピボット(回転軸)を設け、その外側の主翼を動かす方式が実用化された。
具体的な研究は第二次世界大戦中のナチス・ドイツにおけるMe P.1101(地上でのみ変更可能)などを端緒とし、戦後にアメリカが開発したX-5によって1951年に飛行試験が行われた。実用機としてはアメリカのF-111が1964年に初飛行し、コンピュータ制御によるコントロール増強システム(CAS)の導入により操縦特性の問題を克服して空軍に採用された。

主な採用機とバリエーション
可変翼機は、主に艦上戦闘機、戦闘爆撃機、戦略爆撃機などで採用された。アメリカ海軍のF-14 トムキャットは、巡航時だけでなく旋回時にもコンピュータ制御で自動的に後退角を変化させ、高い旋回性能を実現したことで知られる。ソビエト連邦やロシアでもMiG-23、Su-17、Su-24、Tu-22M、Tu-160などが開発された。また、イギリス・ドイツ・イタリア共同開発のトーネードIDSおよびADVも代表的な実用機である。

左右対称に翼を変化させる通常の可変翼のほか、構造の簡素化を目的とした斜め翼(オブリーク翼)の研究も行われた。これはピボットを1ヶ所とし、片方が後退翼、もう片方が前進翼となる左右非対称の形状を持つものであり、NASAの無人・有人実験機であるAD-1などで飛行試験が行われた。

可変翼技術の衰退
1960年代後半から1970年代にかけて広く採用された可変翼だが、その後の航空技術の進歩や要求の変化により、新たな設計ではほとんど採用されなくなった。主な理由は以下の通りである。
- 重量の増加:複雑なピボット機構やアクチュエーターにより機体重量が増加し、性能向上の効果が相殺される。
- コストの上昇:製造、運用、メンテナンスの各段階で高コスト化を招いた。
- エンジンの発達:ジェットエンジンの出力向上により、固定翼でも十分な速度性能と運動性能が得られるようになった。
- 制御技術と空力技術の向上:CCV設計、カナード翼、ストレーキなどの導入により、可変翼に頼らずとも離着陸性能や運動性が向上した。
- ステルス性への悪影響:形状が変化する可変翼は、レーダー波を反射しにくくするステルス設計と両立させることが極めて困難である。

よくある質問
可変翼の主な目的は何ですか?
なぜ民間機ではほとんど採用されなかったのですか?
可変翼機が現代で採用されなくなった理由は何ですか?
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参考文献
- Tucker, Vance A. (1987). “Gliding Birds: The Effect of Variable Wing Span”. J. Exp. Biol. (Company of Biologists) 133: pp. 33-58.